ファームでの収穫。バーバラさんの肉料理を囲む小さなパーティー(後編)

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西区をドライブして買ってきた食材を使って、『マルメロ』のキッチンでパーティーの料理を作ります。

今回のメインディッシュは、バーバラさんがお母さんに教わったという煮込みの肉料理『ザワーブラーテン』です。「この料理はお肉を数日間マリネして下味を付けるところから始まります。ドイツでも週末の食卓のためにお母さんが、2、3日前から仕込んでおくんですよ」とバーバラさんが教えてくれました。

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牛肉に牛乳を掛けながら、「こうしてあげるとお肉が柔らかくなるし、臭みもとれますね」。そして水気をふきとったら、ワインヴィネガーをベースに作ったマリネ液に漬け込んで2、3日、冷蔵庫で置いておきます。「待つ時間も楽しみのひとつですね。今回は牛肉の肩ロースを使ったけれど、ドイツでは馬や鹿など、脂の少ない赤身肉で作るのが一般的です」。

それらの塊肉をマリネした後に、表面を焼き固めて、ぐつぐつ煮込んで、切り分け、グレービーソースをつけて食べる、南ドイツの伝統的な肉料理。食卓で皆のお肉を切り分けるのは家長であるお父さんの役目なんだそうです。

バーバラさんも結婚して家庭を持ったとき、お母さんの『ザワーブラーテン』が恋しくなって、電話してレシピを教えてもらったそうです。そうして母から娘へ伝承されたレシピは、バーバラさんの息子さんの大好物に。今は離れて暮らす息子さんも、バーバラさんに電話でグレービーソースの作り方を訊ねてきたんだとか。家庭の味はこんな風に、親から子へと受け継がれていくものなんですね。素敵ですね。

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さあ、私も下ごしらえを開始!大西さんの畑と『六甲のめぐみ』で買ってきた野菜を使ってスープ、サラダ、スチーム野菜などを作ります。

まずは、畑で分けてもらった不要な葉っぱや、根菜類の皮やキャベツの芯などのくず野菜を、だし昆布と一緒に水でコトコト30分程、煮出していきます。これがスープのベースのだしになります。根菜類って実は、皮と実の間が一番栄養が豊富なんです。だから剥いて捨ててしまうのはもったいないんです。うちの店ではいつもこのくず野菜を煮出してだしを取っています。動物性タンパク質がなくてもちゃんと美味しいだしがでます。その間に、具となる冬野菜を1センチ角に刻んでおきます。大根、ニンジン、セロリにキャベツ…。バーバラさんとお喋りしながら、野菜をどっさり刻みました。

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「大西さんから教わった料理にも挑戦しましょう」「そうね、どんな味になるのかな?楽しみですね」1㎝幅の輪切りにした、緑、赤などの大根を天板に載せて、同じく輪切りにした「シシリアンルージュ」や「ブラッディタイガー」など、カラフルな大西さんのトマトをのせます。その上にチーズをたっぷりすりおろして、オリーブオイルを回し掛けます。

「オーブンに入れるだけ、簡単、いいこと教わったね」とバーバラさん。

拾ってきたケールの葉とブロッコリーの葉っぱもオーブンでパリパリになるまで素焼きしておきましょう。畑で収穫した蕪やニンジンはシンプルに蒸し野菜にして素材を味わいます。栄養満点のニンジンの葉も捨てないで、ジェノベーゼ風のソースに変身させますよ。

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バーバラさんは、マリネしておいたお肉の調理を始めました。「肉は最初にしっかりと表面を焼き固めておくことが大切ですね」煮崩れ防止と、煮込む間に旨みが外に全部出てしまわないようにと、10分くらいかけて丁寧に肉を返しながら表面全体に焼き色を付けています。マリネした時に使った液も、一度漉して、煮込む時に使うそうです。鍋に野菜を刻んで炒めて、マリネ液の液体の部分、リンゴ、レーズン、ローリエなどと一緒に肉を加えてコトコトと。時々あくを取りながらお肉に火が通るまでじっくり1時間程煮込んでいます。

「付け合わせの『クヌーデル』を作りましょう」とバーバラさん。

大きなジャガイモを茹でて皮をむいてマッシュします。その間に皮をむいた生のジャガイモも、水を張ったボウルにすりおろします。何ができるのでしょう?「おろしたジャガイモを水に放ってしばらく待っていると下にでんぷんが溜まるでしょう、これも使いたいの」とバーバラさん。マッシュポテトに、おろしたジャガイモ、ボウルの底に沈殿したでんぷんを加えて、混ぜ合わせるそうです。

「でんぷんがつなぎになるんですか?」「そう。パン粉を入れる家庭もあるんだけど、パン粉が入るとどっしりして重たいから、私はジャガイモだけで作る方が好きなの」とバーバラさん。「さあ、くるくる丸めてお団子をいっぱい作りますよ」何だか楽しい。ジャガイモ団子ができたら、たっぷりのお湯を沸かした鍋で茹でて『クヌーデル』の完成です。「でんぷんをたっぷり入れていないと、お湯の中でジャガイモがバラバラになっちゃうからバランスが難しいのよ」

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『クヌーデル』を作っている間に、お肉にも火が通ったようです。一旦取り出して休ませて、鍋に残った野菜でグレービーソース作りを始めます。

バーバラさんが取り出したのは、ハート形のジンジャークッキー!? 「いつもクリスマスの時期になると各家庭で焼いて置いておくものなんです。これもグレービーソースの中に入れますね」クッキーが溶け出すと、ソースにとろみがついて美味しくなるのだとか。

「グレービーはドイツの食文化を代表するソースのひとつ。ドイツのことわざに『いい物は時間がかかる』という言葉があります。料理でもアートでも傑作を生むには時間がかかるという意味ですね。グレービー作りは本当にアートのようなものなんです」と、鍋の中をかき混ぜながら、ソースに話しかけるバーバラさん。ことこと優しい火で煮込んで、サワークリームと少しのお砂糖で味を整えたら、バーバラさん自慢のグレービーソースの完成です。

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「じゃあ次はデザートの『ボーレン』も作りましょうか!」

作り方はとっても簡単。買ってきたイチゴとレモンを食べやすい大きさに刻んで、ガラスの器に入れたら、白ワインと炭酸水を注ぐだけ。はちみつかシロップを少し加えて甘みを足しましょう。甘酸っぱいイチゴとしゅわしゅわした炭酸の泡が爽やかで、お口直しにピッタリです。

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さあ、テーブいっぱいにお皿が並びましたよ。彩り溢れて、何だかワクワクしてきます。みんな揃って

「乾杯!」

まずはスープから「いただきます」「こんなにたっぷりの野菜が採れるのがいいですね、今度家でもやってみますね」とバーバラさん。「優しい味で、美味しいね」仲間たちとたわいのないお喋りをしながら食卓を囲みます。買ってきた葉もの野菜も、クルミと金柑と合わせてサラダにしました。「ワサビ菜の辛みが効いてますね」「うん、本当に力強い味ね」「こんなに新鮮な野菜が神戸にあったのね」と驚きの声が次々と上がります。

「大西さんのレシピで作った根菜とトマトのピッツァ風も食べてみよう!」

「大根がピザ生地の代わりなんだね」、「確かに、焼いてほっくりした蕪が、トマトとチーズを受け止めてる。面白いね」「スチーム野菜には、ニンジン葉のソースか、塩レモンのソースをお好みでつけてね」「このニンジンのジェノヴェーゼ、美味しいですね」とバーバラさんも目を輝かせています。

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さあ、いよいよメインの『ザワーブラーテン』をいただきましょう。

お肉を切り分けて、クヌーデルとグレービーを添えます。「グレービーは野菜とフルーツの甘さ、サワークリームの酸味、スパイスの風味が一体となって、見た目よりずっと爽やかな味なんですね。しっかり下味をつけて、さらに煮込んで旨みを染み込ませたお肉にぴったり」「そうでしょう。お口に合いましたか?」とバーバラさん。みんなソースをおかわりしています。「『クヌーデル』はつるんとした食感が不思議。これジャガイモだけで作ったんだよね?軽やかでいいよね」「日本では生のジャガイモと茹でたジャガイモを合わせるっていう発想がないからね、これ、発見でした」と初めての味に感動です。

最後に『ボーレン』でお口直し。「見た目も華やかね」「パーティーにぴったりね」ワインも飲んで、美味しい物を食べて、話題と笑顔の賑やかな食卓になりました。

たまの休日、こんな風に家族や仲間と集まって、買い出しをして、時間をかけて丁寧に料理を作るのもいいかもしれません。気の置けない人たちと美味しい物がたくさん並ぶテーブルを囲めば、みんな笑顔に日本とはひと味違う、ドイツの家庭料理にふれることができた、ある日の午後。温かい空気がそこに流れていました。

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