神戸のお母さんたちと伝統食 – FARM TO FORK 2019 トークセッションレポートvol.1 –

2019年11月9日(土)〜10日(日)の2日間に渡り開催した、EAT LOCAL KOBE な文化祭 「FARM to FORK / 食都神戸DAY」で行ったトークセッションの内容をレポート!

第1弾は、神戸の里山と海辺で長年暮らしてきた「神戸のお母さん」たちをゲストにお招きし、私たちの暮らしから忘れ去られつつある神戸のリアルな食文化についてお話を伺いました。

左から、安藤美保(司会進行/一般社団法人 KOBE FARMERS MARKET 理事)、西馬きむ子さん(有限会社ヘルシーママSUN代表)、中西和子さん(兵庫六甲JA神戸北女性会会長)、井上二三枝さん(神戸市漁業協同組合女性部部長)

─ 「伝統食を引き継ごう」をテーマに開催しているFARM to FORKですが、このトークセッションでは神戸の海辺と里山で暮らしてきたお母さんたちから、郷土食や伝統食についての話を伺いたいと思い集まっていただきました。神戸で暮らしている私たちでも、いざ「神戸の伝統食って何だろう」と考えるとなかなかピンとくるものが出てきませんでした。そのため、長田区・須磨区・垂水区といった海辺のエリアと西区・北区の里山エリアの婦人会のみなさんにアンケートして、それぞれの地域の伝統食を教えていただきました。今日はその中から興味深い伝統食をご紹介しながら、ゲストのみなさんからお話を伺っていきたいと思います。

神戸産ちりめんを使った「ちりめん山椒」(長田区・須磨区・垂水区)

─ 西区・北区といった里山エリアでは、山菜などの山で獲れる食材を使った料理が多く出てきましたが、海辺でも北区の「有馬山椒」を使って「ちりめん山椒」を作っていたようです。本日は井上さんが作って来てくださり、会場のみなさんに振る舞っていただきました。

井上さんが作ってきてくださった神戸産ちりめんを使った「ちりめん山椒」と、西馬さんが作ってきてくださった「さつまいもの柚子煮」

井上)神戸市漁協では、現在もちりめんじゃこを年間通じて獲りに行っております。本当はいかなごを振る舞いたかったのですが、最近はいかなごが獲れなくなったためちりめん山椒を作ってきました。山椒は、有馬山椒の収穫量がまだ少ないということもあり、今日は丹波の山椒を使っています。

─ ちりめん山椒の作り方にコツがあって、サッと湯通しするそうですね。

井上)はい、そうなんです。今日は若い方が多いので大丈夫だと思いますが、もっと柔らかく作りたい場合は、沸かしたお湯に少し長くちりめんを入れてからザルに上げて作ってください。そうすると、少しは柔らかく仕上がります。山椒をよく効かせたい方は、調味料を入れる時に一緒に入れてください。

─ いかなごが高騰している昨今は、ちりめん山椒で神戸の味を楽しみたいですね。そして本日はもう一品、西区の西馬さんが作ってきてくださった「さつまいもの柚子煮」をみなさんに振舞っていただきました。

西馬)昔から「サツマイモは命をつなぐ」と言われていて、日本全国で作られています。みなさんもお好きだと思いますが、一番に思い浮かぶ調理方法は「焼きイモ」でしょう?でも、今日は小さめのサツマイモをサクサクっと切って、家の裏に生えている柚子で炊いてみました。子どもが「お腹すいた」と言ったらすぐに作れて、しかも子どもが喜ぶ簡単な料理は昔からあります。

─ すぐに手に入る旬の物を使ってサッと手短に料理を作れるというのは、すごく豊かなことですね。では、ここからはアンケート結果を紹介していきたいと思います。

泣くほど辛い「からし素麺」(神戸市北区)

─ 今回のアンケートで私ははじめて知ったのですが、北区には「からし素麺」という料理があるそうです。会場でご存知の方はいらっしゃいますか?……だれもいない!中西さんはいかがでしょうか?

中西)私は食べたことは無いのですが、からし素麺はお葬式の夜に食べる料理だと聞いています。涙を流すのを助けるために辛いお素麺を食べるそうで、いまでも北区の淡河や大沢の奥の方へ行くとまだそういった風習が残っています。

─ 本当にめっちゃ辛いんですね!(笑)

中西)涙が出るくらいでないとダメなんです。

西馬)お葬式の料理というと、西区では鶏(カシワ)を入れたご飯を大きな鍋で炊くんです。それをお葬式を手伝ってくれた地域のみなさんに振舞うという習慣があります。しかも、それを炊くのは必ず男の人となぜか決まっていました。昔からお葬式といった行事には地域ごとに何か決まり事があって、これまで引き継がれてきています。行事に合わせてその時々に食べる料理は、神戸の伝統食と言えるのかなと思いますね。

─ おもしろいですね、ぜひ両方とも食べてみたいです。

冬場の保存食「クジラの皮」(神戸市全域)

─ さて次は、海辺からも里山からも共通して出てきた「クジラの皮」についてお話を伺いたいと思います。「クジラのように大きくなる」という験担ぎがあったのでしょうか。

中西)北区ではクジラの皮は保存食でした。冬になったら粕汁に入れたり、おからに混ぜていいお出汁を作ったりしていましたね。クジラの皮は貴重でしたが、魚と言うと干物しかないような時代の話です。それが今でも北区には受け継がれていて、粕汁というと鮭よりもクジラの皮という方がたくさんいらっしゃいます。

─ クジラを山の中で?と不思議に思っていたのですが、保存食だったんですね。西区では、保存食としてではなく新鮮なクジラの皮が手に入ったそうですね。

西馬)昔は西区は明石だったんです。農業地帯だけど海が近くにあって。西区には垂水・舞子からお嫁に来られる人が多く、西区からもお嫁に行くことが多かったのですごく交流が深かったんです。お彼岸や藪入り*の時には、浜の人が田んぼに来る、田んぼの人が浜に行く。そういう交流があったので、跳ねてるタイとか、動き回るタコなどを有難いことに生の状態で手に入れられていました。なので、新鮮な魚を使った料理は北区に比べると進んでいたと思います。反面、加工したり保存する方法というのは西区には少ないです。

*お盆と正月に、奉公に出ている子供や嫁いだ女性とその子供が実家に帰省する慣し

米粉を使った「柏餅・よもぎ餅」(北区)

─ 北区では柏餅やよもぎ餅といった、米粉を使った菓子を伝統食として挙げてくださっている方もいました。

中西)昔の有馬郡・武庫郡といった現在の北区の辺りでは、六甲山系のきれいな水を使ってお酒用の山田錦などを育てていました。なので北区のお米はおいしいと言われていて、それを使った菓子も伝統食と言えると思いますね。

神戸の海辺の味「海苔・ワカメの佃煮」(長田区・須磨区・垂水区)

─ 海辺のお母さんたちからは、「海苔やワカメの佃煮」という回答を多くいただいています。

井上)茎ワカメといって、ワカメの芯の部分を柔らかく炊いて佃煮にします。昔はワカメが地崎(目の前の海)でものすごく獲れていたのに、今は養殖しなければワカメは手に入らなくなりました。地崎でも獲れるそうなんですが、硬くて食べられないみたいです。海釣り公園のある辺りの平磯まで、地崎から一斉に旗を立てて漁に行くような光景が昔はありましたね。須磨の方ではワカメを株付して養殖オーナーになれる取り組みもあるので、そういった場所で佃煮をはじめワカメの食べ方を教わることもできるようです。

大人も子供も神様も、みんな平等の「平碗」(西区)

─ もうそろそろお正月の時期ですが、せっかくなのでみなさんの地域に伝わるお節料理があれば教えていただけますか?

西馬)西区では、「平碗」という料理をお正月に作ります。大人も子供もみんな平等な塗りお椀に、ブリ・ゴボウ・ニンジン・ヤマノイモを炊いたものを入れて焼き豆腐でフタをします。それと、尾頭つきの鯛・雑煮といったお節料理をみんな平等に食べるんです。もちろん、神様も同じようにということで神棚にも御膳をお供えして、元日の朝に「今年も一年よろしくお願いします」と言って一緒にお料理をいただきます。元日の朝は、必ず家族揃ってよく食べる。これも伝統です。

─ 北区の方からは、元旦の朝に「五色の煮物」を食べると回答をいただいています。これも似たようなものなのでしょうか。あとお正月の二日には「とろろ汁」を食べる人も多いようですね。

中西)とろろ汁は、元旦はたくさん食べるので、胸焼けを抑えるためですね。お腹を休憩させるために。

西馬)西区も同じで、お父さん方がよく呑むので「胃休め」の料理を食べます。ニンジンとダイコンの酢の物と決まってます。

とんどの「へそ団子」(神戸市北区)

─ 私は大阪出身なのですが、とろろ汁は食べなかったので神戸ならではの習慣なのかなと思います。お正月が終わって、1月14日の「とんどの日*」に食べる「へそ団子」というのはご存知ですか。北区淡河町の方からのアンケート回答です。

* お正月飾りを燃やし、その火や煙に当たる祭り

中西)とんどの日には必ず餅つきをしますので、それと「とんどの火」で団子を焼く地域があるのかもしれませんね。おぜんざいにする地域が多いと思います。

─ 神戸の中でも、それぞれの地域で色々なお節料理があり、どれも食べに行ってみたいですね。年に1度のことなので、お節料理をしっかり作りたいなと思いました。ここまでお母さん目線で神戸の伝統食についてお話を伺ってきましたが、食の中には思いやりがあったり、次の世代に受け継いでほしい大事なコトも食を通じてなら伝えやすいと感じました。お三方にもまだまだ教えてほしいことがありますので、また機会を作っていけたらと考えています。本日はありがとうございました。

Text & Photo / Norinao Kento