「モノ」社会から「心」の社会へ。西区神出町の西馬さんを訪ね、お話しを聞きました。
神戸市西区の神出町という農村地帯に西馬さんというご夫婦で農業を営む方がいらっしゃいます。ファーマーズマーケットに出店している複数の農家さんが「親方」「師匠」と慕い、他にも沢山の方から噂を聞き、ぜひ直接お目にかかりたいと思い訪ねました。
現在、有機農業を営まれる傍ら、農を通じたコミュニティー作り、後身を育てる様々な活動をされていますが、約30年前、当時の農業のあり方に大きな疑問を持ち、大きく方向転換をするきっかけがあったそうです。
当時は国が補助金を出し、農業の大規模化を進めていた時代。大手のスーパーと契約し、大農家になることが推奨されたそうです。高度成長期でもあったこの時代、都会には給料の高い仕事が沢山あったので、農業をやっている人たちがみんな都会に稼ぎに出るようになってしまい、周辺の農家は効率化を求めて兼業農家に。素朴な農村だった神出においても、兼業農家が中心となり、本業で農家をやっているのは集落で西馬さん達を含めてたった2軒に。村の風景や経済活動が大きな変化をしてしまったそうです。
西馬さんが小さな頃の農村ではお米がお金。そして人の「心」と「心」が通じ合い、共に助け合って暮らす社会だった。それが少しづつ崩れていく様子を目の当たりにし、「自分たちの暮らしは違う、この素晴らしい神出の農村文化を守りたい」という思いから、少量多品目生産、有機農業に転換されます。30年ほど前は、このような大転換に対し、周りの人々は冷ややかで、誰が買ってくれるのか?という反応でしたが、生産を始めてから数ヶ月、神戸大丸のバイヤーの人が野菜を気に入ってくれ、買い取ってくれることになったそうです。その時、「志をしっかり持てば、支えてくれる人たちがいるんだ」と感じたそうです。
そうした生産活動の転換から数年し、仲間をつくることを始めます。平成3年の5月に10名で「ヘルシーママSUN」という女性の有機生産者グループを結成。志したのは顔の見える取引、つまり「心」と「心」の取引ができる関係をつくること。今でこそ、CSA(コミュニティーサポーテッドアグリカルチャー)という言葉が一般的に知られてきましたが、25年前から農家と都会購入者の直接的な取引を意識して設立されたグループは非常に珍しく、なんと今では延べで千名を超える会員数となっています。
ヘルシーママSUNの主な活動は、農業を体験してもらうこと、一緒に調理すること。そうした共に過ごす時間を大切にして、継続的に取引をすること。子供たちの農業体験や、自分たちの食べるものは自分たちで作ろうというテーマを掲げた様々な農作業体験、田んぼの中での運動会『農りんピック』、味噌作り体験、農村の暮らし体験など様々な食のイベントを企画し一般消費者の方々と交流されています。
あわせて始められたのが農家を育てる学校。プロになりたい人向けのコースと趣味のコース。ここから巣立った人が神戸市西区で多く就農しており、ここで家庭菜園を学んだ方々が多くが自分たちの畑や庭や貸農園で家庭菜園をはじめるきっかけとなっています。
一般消費者にも有機農業のこと、特に「土」に興味を持ってもらうことを心がけておられます。「良い土」とは、ミネラルが豊富な保湿力と保水力のある土のことで、この「良い土」で作られた野菜は健康でミネラルをたっぷり含みます。健康な生活には日常の健全な食生活が欠かせなく、有機野菜は病害虫を殺すための農薬を使わない野菜ということだけでなく、「良い土」によってミネラル豊富な繊維質の多く含んだ美味しい野菜でもあり、一般消費者の食卓にそうした野菜が届くようにすることが必要だも考えておられます。
現代社会は「モノ」社会。お金でモノを買うことがあたり前の社会。西馬さんは「モノ」社会を「心」の社会に戻したいと、農業を通じて若い後継者を育てることに日々従事されています。
最後に若い人たちにアドバイスがあればとお聞きしました。
「お互い話しをして、協力しあう姿勢が必要だと思いますよ。考え方は人それぞれだから少しづつ違うけど、みんな一人では生きていけないわけで、農家も含め、近くの人たちで助け合って「お互い様の方法論」を考えた方が良いと伝えています。」