シェパニーズ元料理長のジェロームさんに教えてもらった、農家とシェフの付き合い方
10月某日、シェパニーズ元料理長のジェロームさんと、東京でジェロームさんと一緒にお店を始めるBEARDの原川さん、そして神戸の農家・シェフの方々をお招きし、農家とシェフの付き合い方についてディスカッションする場を設けました。シェパニーズの事例から多くを学んだ、当日の様子をレポートします。
*シェパニーズ(Chez Panisse)は、アメリカ・カルフォルニア州にある、地産地消がコンセプトの世界的に有名なレストラン。
この日は土曜日。東遊園地のファーマーズマーケットを終えたその足で、農家・シェフの皆さんと、マーケットを見学されていたジェロームさん、原川さんが会場に集まりました。
イベント開始までの間に、マーケットで買ったばかりの野菜を振る舞ってくださったジェロームさん。その素敵なプレゼンテーション(盛り付け)と美味しさで、会場が自然といい雰囲気になったところで、イベントがスタートしました。
ジェロームさんは、東京で新しいお店をはじめるために25年間勤めたシェパニーズを辞め、2016年4月から東京にお住まいだそうです。イベントの前半では、原川さんも交えて、シェパニーズのこと、そしてシェパニーズでの農家とシェフの関係についてお話してくださいました。
「シェパニーズの半分は、農家さんでできている」と語るジェロームさん。その理由は「食材がなければ、そもそもレストランの存在もない」から。「おいしい食材と、それが育つ環境に愛を注いでくれる農家さんは、シェパニーズに欠かせない存在」だと続けます。
シェパニーズは、レストランから1~3時間ほどの距離にある農家とやりとりしていて、中でもいくつかの主要な農家とのやりとりが大部分を占めています。その主要な農家のひとりが、ボブ・カナードさん。シェパニーズとは30年以上のお付き合いがあるそうです。
作物の状況を見に農園を訪れるなど、農家と密にコミュニケーションをとるシェパニーズのシェフたち。ボブさんの農園では、年に2度シェパニーズのスタッフ全員が集まり、その年の野菜のできについて等、色々な話をするそう。「収穫を手伝ったり、農園で食卓を囲むこともよくある」と話すジェロームさん。「実際に足を運び、一緒に時間を過ごすことで関係を築いてきた」と言います。
シェパニーズには、農園からシェフに収穫物のリストが届きます。その頻度は、週に1回~3回くらいで、農家によって異なるそうです。リストには作物それぞれに「よく採れている」や「あと5ケースしかないよ」「ぜひ使って欲しい」などコメントが入っていて、収穫の状況をシェフに伝えるコミュニケーションツールになっています。
大きな農家はレストランに野菜を配達してくれるそうですが、配達の手がない小さな農家の場合は、レストラン側がファーマーズマーケットに引き取りに行くこともあるとのこと。農家とシェフが直接会うと、「いま何が採れているのか、ではこういったメニューを作ろうかというように、電話より密なコミュニケーションが生まれる」とジェロームさんは言います。このようにして、シェパニーズのシェフたちはいくつもの農家さんから収穫情報を仕入れ、その状況をもとにメニューを考え、野菜を注文します。
シェパニーズのメニューは1種類のコースのみで、「内容は毎日変わるものの、1つのメニューだけで多くの人を満足させるのは大変だった」と言うジェロームさん。メニューを考えるときに「作りたい料理のために食材を集めるのではなく、いま農家さんから手に入るおいしい物で何ができるか」(*)と発想するのがシェパニーズ流で、とてもおいしい野菜があれば、それを中心にメニューを構成することもあったそうです。
*「手に入る食材からメニューを考える」という発想は、EAT LOCAL KOBEでも大切にしている考え方で、コンセプトブックで取り上げたり、実際に取り組みをはじめていたので共感を覚えました。いま手に入る、ということは旬の食材ということでもあります。
続いて、ジェロームさんはシェパニーズのキッチンの様子も教えてくれました。
キッチンにはハイテクな設備がひとつもなく、タイマーさえないそうです。さらに特徴的なのが直火で調理すること。「シェパニーズは自然と対峙することを重視するため、自然と向き合うアプローチのひとつとして、直火をコントロールして調理している」と、ジェロームさんは言います。
シンプルな料理が多いシェパニーズ。その理由を、ジェロームさんは「食材そのものを見て、味わって欲しいと思っている」からだと言います。そして、それができるのも「農家さんがおいしい野菜をつくってくれるから」と、ジェロームさんは締めくくりました。
シェパニーズのお話を伺った後はいよいよ、神戸の農家・シェフとジェロームさん、原川さんとのディスカッションタイム。和やかな雰囲気が徐々に熱気を帯びていった、イベント後半のスタートです。
ディスカッションの冒頭は、ある若手農家の印象的な言葉から始まりました。
「何気ないお話だったと思うのですが、『美味しい料理を作れるのは、農家さんが美味しい野菜を作ってくれるからだ』という言葉、こんなに心がこもった言葉を僕は今まで聞いたことがなかった…とても有難かったです…ありがとう」
何度か声を詰まらせながら吐露された、農家が報われない現状を物語る言葉に、会場にいる全員の心が動かされました。「そう言ってくれてうれしい。そう感じてくれたことを知れて、こちらも有難い。ありがとう」短い言葉でしたが、ジェロームさんの表情から、若手農家の想いがしっかり伝わっていることがわかりました。
ー シェパニーズで働き始めた25年前から、農家とのやりとりを大切にされていたのですか?
ジェロームさん:そうでもありません。興味を持ち始め、積極的にアプローチしはじめたのはここ10年くらいですね。オーガニック(有機農業)が、自分たちの体を作るもの、土や水、生態系、地球を健やかにするためのアプローチなのだと気づきはじめて、どんどん興味を持ちはじめました。最近は、個人的なライフスタイルから一歩踏み出して、環境に大きく関わっていくという視野を持つようになりました。君はどう?(原川さんに)
原川さん:僕は、シェパニーズで研修させてもらうまで「食材は自分の料理を表現するためのパーツ」だと捉えていました。でも、シェパニーズでの経験を通して、食材がなければそもそも料理は生まれないんだと感じるようになりました。日本に帰って、自分も少しでもシェパニーズと同じ様なことをしようとしましたが、はじめは大変でした。今まではスーパーや業者さんに発注すれば届いていた物を、自分でひとつひとつ直接農家さんに譲ってもらうとなると、まあ大変で。本当に気が狂いそうなくらい大変で。でも、自分が美味しいものを出すためには必要な作業なので、慣れていくしかないなと。こういったやりとりを通して、食材っていうのは勝手にその辺に転がっているわけではなくて、その時に採れる物がそこにある、それが全てだということを痛感しました。そして、「じゃあその時にもらえる物で自分は何が作れるのか」と考えるようになってからは、作る料理も、メニューもすごく変わりました。
ー 実際に農家とやりとりする時は電話ですか?
原川さん:そうですね、FAXが苦手なので電話かメールでしています。「何かいい物ありますか?」「○○円分、送ってください」という感じで今は注文してますね。
ー 農家がこれをしてくれると、シェフとしてはやりやすい。ということはありますか?
原川さん:今日知ったんですけど、「いまこれくらいあるよ」というリストはいいなと思いました。価格や、ちょっとしたコメントが載ったリストはありますが、「これめっちゃおいしいから是非使って欲しい!」というようなアピールをされる方は少ないです。それを見ると、じゃあ使おうかなってなりますよね(笑)
ー 作付けされた時点で、何を植えたかといった情報は欲しいと思いますか?
原川さん:それは思いますね。収穫は天候に左右される面もありますが、来月こんな物ができてくるよ、というのはシェフも「何かしようかな」と考えるきっかけになると思います。
ー 農家から仕入れる時に、例えば「イチジクならこの農家」といった選び方をされますか?
ジェロームさん:「イチジクならこの農家」といった選び方はしないですね。シェパニーズのシェフと農家さんとの関係は、築地の卸業者と寿司屋の関係に似ているかもしれません。寿司屋が欲しい物を卸業者がだいたい把握していて、何も言わなくても「こんな物がはいったよ」と教えてくれる。というように、信頼をもとに成り立っている関係なのでそういった選び方はしません。
ー シェパニーズでは、収穫リストを作れない農家には代替手段を用意するなど、柔軟に対応しているのでしょうか?それとも、リストを作るように導いているのでしょうか?
ジェロームさん:リストを作れる・作れないで農家さんを選んだりはしていません。リストとは違う形でコミュニケーションがとれたら問題ないです。お互いが歩み寄ってコミュニケーションしていくことが大切だと思います。
ー 日本では農家の数がどんどん減ってきています。カリフォルニアではどうでしょうか?
ジェロームさん:アメリカでも数は減ってきています。兼業されている方も多いです。農家でお金持ちになるのは難しい状況ですね。その一方で、若者には農業が魅力的に映っている面もあります。若い世代にとって魅力的な仕事は、クリエイティブで、かっこよくてチャレンジできる仕事。その全ての要素が、農業には入っているという話をよくしています。農家が、若者がイキイキできる職になる可能性は大いにあると思います。
ー シェパニーズには、オーガニックを目指す若者を応援するような取り組みがありますか?
ジェロームさん:シェパニーズの創設者であるアリス・ウォータースは、若い世代が食の教育を正しく受けるのが大切だと考えていて、エディブル・スクール・ヤードというプログラムを行っています。日本を含め500校以上で取り入れられていて、授業の中で育てた野菜を調理し、食べるといったことを行っています。そのプログラムの中から若い農家が生まれる可能性がありますね。
ー 家で料理を作る時と、店で料理を作る時では何が違いますか?
ジェロームさん:家で作るときは軽めの穀物や野菜を使って、シンプルなものを作ります。または、実験をすることもありますね。先日は梅を使ってチャツネを作ってみました。シェパニーズで料理を作るのはプレッシャーもありましたが、とても楽しかったです。素晴らしいシェフと食材に囲まれて毎日が楽しかった。だから、25年間続けられたのだと思います。
原川さん:そう、みんな楽しそうなんですよね。「互いのことを配慮して働きましょう」という暗黙の了解があるみたいですね。どんなに忙しくても、例えば仕込みがたまっている時でも、分からないことを聞くと、手を止めて100%の力で応えようとしてくれるんです。
ーどうしてそれが可能になるのでしょう?
原川さん:個人的な解釈ですが、食べ物と、それを取り巻く環境が豊かだからだと思います。土地柄もありますね。心に余裕があるんです。日本では時間に追われて、ひとりで立ってまかないを掻っ込んだりしてしまいますけど、まかないのために1食作ったりすれば少し優しくなれるかもしれませんね(笑)
ー サンフランシスコでは、シェパニーズのように農家とのコミュニケーションを大切にする考え方のレストランが多いですか?それともまだ一部なのでしょうか?
ジェロームさん:こういった考え方は、いまベイエリア(サンフランシスコ、バークレイ、オークランドなどを含む地域)で定着してきています。なので、ベイエリアは良い質のものを手に入れる環境として恵まれていると言えます。ただ、ベイエリアはアメリカの中でも発展している地域なので、アメリカ全体に定着しているという訳ではありません。
終わってみれば、予定時間をかなり過ぎていたこのイベント。特に後半のディスカッションは、時間を忘れてしまうくらいの熱中ぶりでした。
東京のジェロームさんと原川さん、神戸の私たち、そして日本中、世界中で同じ想いを持つ人たちが、それぞれの場所で「農」が真ん中にある食のあり方を発信し続けていけば、現在の「農」をとりまく環境を少しずつでも変えていけるはずだと信じています。EAT LOCAL KOBEは、これからも小さな1歩を休めずに活動していきますので、どうぞ一緒に歩んでください。この日惜しくも参加できなかった人たちを含め、同じ想いを持つそれぞれの次の展開が楽しみです。
シェパニーズ
└ http://www.chezpanisse.com/intro.php
BEARD
└ http://b-e-a-r-d.com
エディブル・スクール・ヤード・ジャパン
└ http://www.edibleschoolyard-japan.org