農を味わい神戸を耕すピクニック FARM TO FORK 2016│レポート

11月5日に東遊園地で開催した、農を味わい神戸を耕すピクニック「FARM TO FORK 2016」の様子をレポートします。

FARM TO FOLK 2016は、神戸の「農」に関連する催し物と、地産の物が手に入るファーマーズマーケットを通して、神戸の「農」の豊かさや可能性を多くの人に知ってもらうために開催したファーマーズマーケットの拡大版イベントです。

当日は晴れ、気温もすごしやすく絶好のピクニック日和になりました。

10時のイベントスタートに向け、農家、漁業組合、牧場などに加えて豆腐や玉子、朝ごはんなど約40のブースが出店するマーケットエリア、茅葺体験や子供と楽しめる工作、トークイベントにライブ、4人のシェフによる神戸野菜をつかったランチなどの催しを開催する芝生のイベントエリア、それぞれで準備開始。

9時頃には会場を訪れる人がちらほら集まりだし、イベントスタートの10時を過ぎた頃にはたくさんの人で東遊園地が賑わいはじめました。

芝生広場での催し物のトップバッターは、アメリカのオレゴン州ポートランドで都市型農園(アーバンファーム)を営んでいるステイシー・ギブンズ(STACY GIVENS)さん。ファーマーでありシェフでもあるステイシーさんに、農業への先進的な考え方や、ポートランドのファーマーズマーケットについて私たちの代表がお話を伺いました。

STACY GIVENSさん(左)Side Yard Farm & Kitchenのオーナー兼シェフとして活躍されています / お隣は通訳の辻かおりさん

ロサンゼルスで生まれたステイシーさんは、ご家族がレストランを経営されてたこともあり、調理が大好きで15歳から料理をはじめていたそうです。ポートランドには10年前に住み始めたとのこと。

Side Yard Farm & Kitchen(*)を始めるきっかけは、ステイシーさんが働いていたレストラン。屋上で野菜を育て、その野菜を使って料理を提供するスタイルに農業と食のつながりを感じ、「2~3年後には自分自身でそういったシステムを作りたいと考えた」そうです。(*)ステイシーさんがオーナー兼シェフを務める農園と移動式レストラン

たくさんの人が歩みを止め、ステイシーさんの話に耳を傾けていました

ステイシーさんが農家になろうと思ったのは、育てた野菜をどのようにしてテーブルに食事として届けるか、そういった農業と食の繋がりをもっと伝えていきたいと感じたのがきかっけ。いまでは、農業と食の繋がりを感じてもらうイベントを開催しています。

例えば、月に1度、農場でブランチとディナーを食べるイベントでは、30人くらいで満員になるような小さなスペースで、その農園で採れたものや近くの農園で採れたものを料理し、みんなで食べます。ハチミツやサラミ、チーズなどもすべて手作り。「農園で食べると、ここで育ったものがこういう料理や製品になるんだと、農業と食のつながりを実際に見てもらえる」とステイシーさんは言います。

月に1度は、ポートランドにいる専門家を招いたワークショップも開催していて、特に鶏をさばくワークショップは、自分たちがどのようにして命を頂いているのかをダイレクトに感じることができるので、多くの人が関心を持って参加しているそうです。

神戸市北区の農家 森本聖子さん(中央左)農園がある北区淡河町は三ノ宮から約30分の場所

イベント中盤では、神戸市北区で農業を営まれている森本聖子さんにもご参加いただき、神戸での農業体験についてお話しを伺いました。

3~4年前に会社員から農家に転身された森本さん。ベランダ菜園から野菜を育てることに興味を持ち、北区にある貸し農園借りたそうです。そこから1年ほど、会社勤めと農園を続けられていました。

畑で作った野菜と、ベランダ菜園で作った野菜の違いが面白くて、栽培を学ぶように。そこから実際に神戸市西区の栽培を学べる学校(*)に通い、卒業後1年の研修を経て農家として独立されたそうです。

* 公益社団法人兵庫みどり公社が運営する「楽農学校

現在は、少量多品目でレストランやシェフの方が欲しがるような、カラフルな野菜やハーブ、イチゴなどを栽培し、週に2回配達をされています。徐々に仲間とレストランやホテルへ出荷したり、ファーマーズマーケットに参加し対面販売したりするなかで、今のスタイルになったとのこと。

農業をしながら、どうやってイベントを主催する時間を作っているのか、ステイシーさんに質問した森本さん。Side Yard Farmでは、農園を管理する2人のマネージャーと、アーバンファーミングに興味があるボランティアの人たちに手伝ってもらっているから時間を作れていると、ステイシーさんは答えていました。

神戸市長 久元喜造氏(右)

イベント終盤では神戸市長 久元喜造氏を交え、ポートランドと神戸の都市と農業の関係や、これからの神戸について話が展開されました。

久元市長からポートランドの街の特徴について聞かれ「ポートランドに住む人たちは、みんなが小さいながら何か生業(例えばアーティストやシェフなど)を持っていて、大きな企業に依存しているという人が少なく、また、同じ業界であっても競争ではなく協力するように働きあうことも特徴」と回答されるステイシーさん。

次に、ポートランドと神戸のファーマーズマーケットの違いについては、「神戸のファーマーズマーケットは落ち着いた雰囲気で、この場を楽しみにきている人が多い印象を受けました。一方でポートランドやベイエリアのマーケットは、買うものをめがけてやってきて、買ったらすぐ帰るような場になっています。雰囲気は違いますが、両方とも似たようなバイブレーションを持っている」と答えられていました。

続いて市長からは「ポートランドでは街の中に農地があるが、日本では町は町、農地は農地、というように都市計画で分けています。これは人口が増えている時の乱開発防止の施策でしたが、これからの人口が減っていく時代においては、魅力ある農村地への移住や農業をしやすくしていきたい」という話、そして「農村地域の農地や空き家を借りやすくし、商売をしやすくすることでレストランなどを増やし、人が訪れるようにしたい」といった話、「都市と農村が近いという神戸の地理的特徴をいかし、大都市圏からの移住をさかんにしたい」といった話などが次々と展開されました。

トークイベントの登壇者全員で記念撮影 / 左は司会進行のKOBE FARMERS MAKRET代表 小泉寛明

最後は久元市長から「ポートランドの事例を参考に、地産地消への取り組みを都市でも、農村でも進めていきたい」「これからは地産地消を進めるだけではなく、神戸を食都(しょくと)にしたい。神戸に来たら地産地消のおいしい料理、シーフード、お酒やワインを楽しめる『食の都』にしていきたい」とこれからの神戸の展望を語っていただき、1つ目の催しは終了となりました。

このトークイベントのすぐ横で行われていたのが、相良育弥さん・TEAMクラプトンによる茅葺(かやぶき)のワークショップ。

普段なかなか見る機会がない茅葺にみなさん興味津々

実は神戸市北区に数多く残っている茅葺の古民家。相良育弥さんは、その茅葺き古民家の保存を目的に活動している茅葺き職人チーム・「くさかんむり」の代表です。

そんな相良さんと一緒にワークショプをするTEAMクラプトンは、神戸を中心に、設計、デザイン、施工、DIYのサポート、イベントのプランニングなど幅広く活動する建築集団で、マーケットの大道具担当でもあります。

このワークショップは「農の一部でもある茅葺を造り、里山の風景を町で再現することで、神戸の豊かさを実際に体感してほしい」という想いで企画しました。

「いつか東遊園地に茅葺のカフェができたらいいな」と言うと、「いつでも来るよ!みんなでまたお屋根を葺こう!」と相良さんは答えてくれました。

茅葺のワークショップは子どもたちにも人気でした。

お腹が空きはじめる12時からは、神戸のシェフたちによる、おいしいランチの販売がはじまりました。

今回出店してくださったのは、イタリア料理のリストランテ ハナタニ、フランス料理のルセット、日本料理の玄斎、パンのサ・マーシュ。料理を作る前に、マーケットに向かうシェフのみなさん。生産者とのコミュニケーションは、料理作りにおける需要なプロセスです。

リストランテ ハナタニのシェフ花谷和宏さん(右)
ルセットのシェフ依田英敏さん(右)
玄斎のシェフ上野直哉さん(右)
サ・マーシュの西川功晃さん(右)

普段はにこやかなシェフのみなさんですが、いまどんな野菜がおいしいのか、たくさん採れているものは何かなど、食材の話になると真剣な表情。気になる野菜を見つけては、農家さんに話を聞いていました。「おいしそう」「これは使ってみたいな」という声が聞こえてきて、いま目の前にあるモノがどう使えるか、頭のなかにアイデアが生まれている様子でした。

調理中のリストランテ ハナタニ 花谷シェフ
リストランテ ハナタニのパスタランチ
調理中のルセット 依田シェフ
ルセットの和牛ほほ肉のワイン煮込み
調理中の玄斎 上野シェフ
玄斎のファーマーズおでん
サ・マーシュの西川文さん
サ・マーシュの焼きたてパン
ランチ販売ブースの隣にはコーヒースタンドも
お昼時の芝生広場は、ランチを楽しむ人たちでいっぱいになりました
ランチの人気スポットになった、素敵なビニールハウス。花屋のAlleyさんがユーカリ等で飾ってくれました。

イベントを素敵な音楽で彩ってくれたのが、北区で暮らすトリオ+花とお花畑headsのふた組。北区で暮らすトリオ+花の、歌と三味線と和太鼓で演奏される田植え唄は、初めて聴くのにどこか懐かしい、居心地のいい音楽でした。お花畑headsのおふたりは農家さんでもあり、イベントにおいしい野菜と素敵な音楽を届けてくれました。

※ 2組の演奏動画をEAT LOCAL KOBEのFacebookInstagramにアップしています。ぜひお聴きください。

田植え唄を聴かせてくれた、北区で暮らすトリオ+花 / 左、中央左はNIU FARMの三宅夫妻
ファーマーズマーケットにささやき村農園として出店しながら、素敵な音楽も届けてくれたお花畑heads

続いて、芝生広場で開催されたのがトークイベント「食を通じて世界を変える」。

世界中で食に関する活動を行なっているスローフードインターナショナル(NPO)と、世界中の料理のレトルト製造・販売をする世界のごちそう博物館の本山尚義シェフが対談されました。

スローフードインターナショナルの伊江玲美さん(左)と世界のごちそう博物館の本山尚義さん(右)

食を通して難民や移民を救う取り組みも行なっているスローフードインターナショナル。”移民は食文化を運んできた功績のある人々でもある”と捉え直し、昨今のヨーロッパで大きな問題となっている移民問題を、食の観点から解決していこうという取り組みを行っています。日本の食文化の多くも、移民の人々によって持ち込まれものが多いこと例に、わかりやすく説明してくださいました。

スローフードインターナショナルと本山さんは、これから一緒に活動されていくとのことですので、今後の展開に注目です。

絵本画家 大畑いくのさん(左)子供たちと夢の野菜を作って植える「物語農園」を作りました。
子どもたちが作った夢の野菜を、西区 森の農園さんの土に植えました。無農薬で、自然のものを発酵させた肥料を使用されている、ふわふわな土です。

芝生広場では、お昼すぎから絵本画家の大畑いくのさん(*)と物語農園を作るワークショップが始まりました。子どもたちは自分が作った夢の野菜を土に植えたり、吊るしたりしておおはしゃぎ。茅葺づくりに続く子どもたちの新しい遊び場になりました。この体験が小さな種となり、いつか芽を出してくれたらと願って企画しました。この子どもたちの中から農家や茅葺職人が生まれてくれたら素敵です。

* 5年ほど前に神戸へ移住され、活発に活動中の絵本画家。ご自身も子育て中ということで、食への想いが強く、いつもファーマーズマーケットを応援してくださっています。

ファーマーズマーケットエリアは、いつもの倍以上のお客さんで大にぎわいになりました。その様子を写真でお伝えします。

ファーマーズマーケットは芝生広場の催しより一足はやい、14時に終了しました。今回の出店数は約40店と過去最高を記録。いつも出店してくださっているみなさん、今回はじめて出店してくださったみなさん、お疲れさまでした!

最後はみんなで記念撮影。お疲れさまでした!

ファーマーズマーケット終了後も、16時まで芝生広場でFARM TO FOLKは続き、たくさんの来場者で最後まで賑わいました。来場してくださったみなさん、出店してくださったみなさん、お手伝いしてくださったみなさん、ありがとうございました!

とっぷり日も暮れた19時過ぎからは、FARM TO FOLK THEATERがスタート。「EDIBLE CTY」という都市型農業の草の根活動をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映会を夜の東遊園地で行いました。

FARM TO FOLK THEATERの様子。東遊園地で映画を観るのは新鮮な体験でした。

映画では「都市で作物を育てることは、農家を尊敬すること」というようなシーンがありました。神戸でも空き地やベランダを活かして私たちが都市農民となることで、食べ物の作り方を子どもたちに見せることができます。これを可能にするのは、神戸らしい農地と町の距離、そしてファーマーズマーケットです。

マーケットでは苗や種を手に入れることができ、栽培方法などについても会話することができます。EAT LOCAL KOBEでは食育活動の一環としてマーケットを開催し、また町での「農」をおすすめしていきます。そして食育活動やマーケットを通じて、町の風景や私たちの心も耕していきたい…そんなことをお伝えしたくて開催したFARM TO FORKでした。

スタートした時には想像もできなかった、このようなイベントを開催できたのは、マーケットに参加してくださっているみなさんの力あってこそ。

これからも、雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、淡々といい野菜やおいしいものを届ける食育の場として、神戸の当たり前の風景になるように続けていきたいと思います。引き続き、手を取り合って「農」を真ん中においたコミュニティーを広げていきましょう。

Photo=片岡杏子(一部除く) Text=Norinao Kento