神戸 × リガ × ポートランド 食を通じたサステイナビリティ(後編) – FARM to FORK 2019 トークセッションレポートvol.3 –
2019年11月9日(土)〜10日(日)の2日間に渡り開催した、EAT LOCAL KOBE な文化祭 「FARM to FORK / 食都神戸DAY」で行ったトークセッションの内容をレポート!
第3弾は、神戸市長 久元喜造さんと共に、サステイナブルな都市として近年注目されているアメリカ オレゴン州 ポートランドと、伝統を受け継ぎながら自然と共に暮らす北欧の小さな国 ラトビアの首都リガからお招きしたゲストから、各地の「食」「サステイナビリティ」「都市」の関係性を伺いました。(前編はこちら)
市民の交流活動から、市の提携へ
─ ありがとうございます。ポートランドは有名な街になってきていて、たくさんの人が訪れてきています。今後、ポートランド市と神戸市は提携していくという動きもありますが、篠原さんはコウベ ・インターナショナル・クラブというポートランドで神戸のことを発信する仕事もされています。そのあたりのお話も聞かせてもらえますか?
篠原)私は日本の住宅街で牧場をしている家の娘ということで、ポートランドの住宅街で農場をしているさきほどの女性シェフと仲良くなったんですけど、ちょうどその頃にEAT LOCAL KOBE ファーマーズマーケットがスタートして弓削牧場も出店させていただくタイミングでした。話をしているうち、「じゃあ神戸でイベントしようよ!」と盛り上がって彼女を連れてきたんです(笑)それがきっかけでポートランドの農家やシェフ、ワインメーカーたちが弓削牧場にきて、相互に発見がありました。基本的にアメリカは大規模農業が多いのですが、若い人はライフスタイルとして農業を選んでいる人が多く、中でも小さく効率的に都市の近くで農業をしたいという人が多いため、そういう人たちにとっては日本の農業はすごく参考になるみたいなんです。なので、いろんなファームを見てみたいという要望があり、いろんな場所にお連れしました。
まず牧場でイベントしようということで、牧場内でディナーイベントを開催したのですが、ちょうどそのタイミングでFARM TO FORKを開催するということで、2017年のFARM TO FORKでは彼女たちのポップアップストアを開いたり、トークイベントをEAT LOCAL KOBE ファーマーズマーケット事務局と協力して開催させていただきました。それによって、ポートランドと神戸の人の絆が少しずつできてきて、いまではポートランドの人は「神戸に移住したい」と言ってるくらいです。みんな、結構本気で言ってます(笑)。神戸の方が家賃がお手頃だったり、やっぱり農地と街が近いといった恵まれた環境が魅力的なようです。
コウベ ・インターナショナル・クラブが広げたつながり
篠原)こういう輪が広がってきたなかで、ちょうど神戸市がシアトル(ポートランドから車で3時間ほどの街)でコウベ ・インターナショナル・クラブという取り組みをしていると知り「これは面白い!」と思い連絡しました。実はポートランド市と市近郊には兵庫県出身者が60人くらいいて、神戸市出身の人が飲食・物販されている店も実はあったりするのでみんな大喜びで。兵庫県庁でインターンをしていたポートランド市職員の人もいたりして、ポートランドでの神戸の和がどんどん広がりました。
こういったつながりで、ポートランドにおける食都神戸の交流会やPRイベントなどを企画させていただきました。2019年9月末には、メンバーの一人で神戸にも来たことがあるオーガニックで麺を作っているポートランドの女性とと焼きそばパンを通して神戸をPRするという企画もしました。実は、いまでは彼女の焼きそば麺はポートランド市の公立小学校に導入され、ポートランドの子供たちは月に一度焼きそばを食べています(笑)
─ 市長、一連の話をお聞きになっての感想・コメントをいただけますか?
久元)すごく参考になりました。というのも、ポートランドの人たちは「食」をすごく楽しまれている。いろんな人が参加している。また、街が緑に包まれていて、レストラン・カフェが住宅街の中にある。日本の街づくりは、キチッと線引きして市街化するところは市街化して、農地は原則ない。一方で、神戸市北区・西区の農村の大半を占める市街化調整区域では家を新築してはいけない、ということになっているんです。また、市街化調整区域の中でも、用途地域というのをつくって住居専用地域というのがあるわけです。たとえば、北区や西区のニュータウンは住居専用地域になっていて、お店を作ってはいけないということになっているんですね。ポートランドの話を聞いたり、写真を見ていたら、ポートランドは計画的な街づくりをしながらも、緑・住宅・商店・農地がうまく混在しているなと思いました。豊かで、美しく、そしておいしい街。そんなように見えました。神戸にもすごく良いところはあるけれど、ポートランドの街づくり・取り組みを参考にして、あまりに時代にそぐわないような規制やルールは見直した方がよいのではないか、と思いました。
小さくて豊かな国 ラトビア
─ ありがとうございます。ぜひそうなっていけば素晴らしいなと思います。それでは、続いてリガ市から来てくださったリンダさんのお話に移りたいと思います。リンダさん、リガがどんな街なのかを教えてください。
リンダ)みなさんこんにちは、ラトビアの首都リガからやって来たリンダ・プキーテです。神戸に来られて大変嬉しくおもっています。
リガはヨーロッパの北側、フィンランドのヘルシンキから南に400kmほどの場所に位置しています。港町でその成り立ちは818年に遡ります。港町ですので、神戸と同じように他の地域との交流がたくさんありました。東西ヨーロッパからの影響をたくさん受けています。ラトビアはとても小さな国で、北海道より小さいくらいです。ラトビアには3つの大きな都市があり、リガはそのうちのひとつであり、もっとも大きな都市でもあります。70万人のひとが住んでいて、次に大きな都市は10万人ほどになります。ちなみにラトビアの人口は約200万人です。ラトビアの街のほとんどは森に囲まれており、自然と共に暮らしています。
他の国に比べて街の人口は少ないのですが、郊外で自然とともに暮らしたいという人が郊外に出て、さらに街の人口は減少傾向にあります。なので、セカンドハウスを郊外に持つ人が増えています。庭があり、野菜を育てたりガーデンキッチンで料理をしたりします。そういった郊外の家から街へ仕事に出かけるというライフスタイルが好まれています。
自然の恵を享受するラトビアの食文化
─ ありがとうございます。では、今日のテーマ「食」についてお聞きしたいのですが、リガでの食はどのような感じでしょうか?
リンダ)主食としてマッシュポテトをたくさん食べる習慣があり、じゃがいもを自分たちで栽培したりもしますが、象徴的なもので言うと伝統的なライ麦パンですね。
ラトビアの人々は季節と共に生きていて、国民生活にも根付いています。たとえば、11月10日は農作業を終える日で、それまでに冬支度を済ませ、次のシーズンに播くライ麦の種も取り終えて雪深い冬を迎えましょうと認識されています。
冬はとても厳しい寒さなので、春夏の収穫物を保存しておくことが重要で、倉庫で塩漬けや薫製、酢漬けにして、冬に少しずつ食べるという習慣があります。4月になり春が来ると、苗を植えはじめ、太陽の恵を喜び分かち合います。じゃがいもは5月に植えます。
夏はもっとも畑作業に向いている時期なので、長い時間を畑や庭で過ごします。リガの特産物のひとつにハーブティーがあるのですが、ハーブが育つのもこの季節です。たくさんの種類のハーブを育て、刈り取っては干してお茶にする文化があります。
私たちの食文化は、おばあちゃんから娘へ、娘から孫へと、世代から世代へ語り継がれていいきます。例えばハーブティーだと、「このハーブは〇〇に良い」といったことが受け継がれていきます。
バーチサップという白樺の樹液を使用した飲み物も、ラトビアならではですね。白樺の木に穴を開けて、垂れてくる樹液を集めます。夏に欠かせない飲み物で、栄養もあり体にもいいんです。
出勤前のマッシュルーム狩り
リンダ)私たちにとって1年でもっとも重要なお祝いを、太陽が一番高く上がる夏至に行います。こういったお祝いはいくつかありますが、そのすべてを食べ物がセットになっています。夏至の日には、ヤニスチーズを食べます。丸くてオレンジ色をしているので、太陽をお祝いするのにぴったりなんです。ビールにもとても合います。夏至の日は、国民全員が夜通し歌い、踊り、味わいます。
夏には花もたくさん咲きます。なので、蜂蜜をとるのも夏です。蜂蜜は私たちラトビア人が砂糖を手にする前からあった、伝統的な甘味料であり体を癒すためにも使用しています。
夏から秋にかけての活動的な時期に、厳しい冬を越すために必要なものを収穫し蓄えます。
リガはとても森に近い街なので、家族行事として夏はベリー狩り、秋にはマッシュルーム狩りによく行きます。出勤前に森へ行き、ベリーやマッシュルームを手に入れるのも日常風景です。どこで採ったベリーやマッシュルームが美味しいか、またどう料理すれば我が家の味になるかなどを、世代から世代へ受け継いています。
長い冬の間に受け継がれるのは、手仕事です。本日はラトビアの伝統的な編み物をいくつか展示していますので、ぜひブースにお越しください。
今日を機会に、みなさんにラトビアのことを少しでも知っていただけるとうれしいです。
─ ありがとうございます。素晴らしいですね。市長、いかがでしょうか?
久元)季節の移り変わりを大事にされていて、自然の恵を受け取りながら暮らされているのだなと感じました。食の分野で言うと、白樺のジュースははじめて聞きました。マッシュルームも日本とは違い、自然に生えているものを出勤前に採りに行くというのは素敵ですね。
かつて私たち日本人もそういった暮らし方をしていたけれども失ってしまった。そういった暮らしをリガの人たちは大切にされているんですね。神戸でも、私が子供だったころは六甲山や唐櫃(からと)、淡河(おうご)では松茸がたくさん穫れたのですが、松林を大事にしないから松茸が穫れなくなってしまいました。これは日本中で言えることかもしれませんが。
もしかしたら私たちが里山を大事にしていたら、リガの人たちがマッシュルームを採りに行くように、松茸を採りに行っていたかもしれない。そうおもうと、とてもうらやましく感じました。
人間らしく暮らし、豊かな自然を大切にする街・神戸へ
─ 本日のポートランドとリガの事例から、どんなことが神戸に活かしていけそうだと感じられましたか?
久元)神戸がどんな街を目指すのかと言うと、やはり東京や大阪とは違う街だと思います。人間らしく暮らせて、豊かな自然を大切にする街。自然とともにあり続けてきたのが、神戸の里山・海で受け継がれてきた「食」なのかなと思います。なので「神戸の食」をもっと生活に取り入れられたら、豊かな暮らしを実現できるのではないでしょうか。例えば、北区の里山には様々な伝統料理があります。春はつくし・よもぎ、秋にはキノコを使ったり。また、お好み焼きもある意味では神戸の伝統食と言えるかもしれません。ただ、伝統を大事にしながらも、時代に応じて進化することが大事だと思います。そうすることで、神戸の食がより豊かになっていく。こういった様子を食都神戸として国内外に発信していけたらと思っています。
─ 市長がおっしゃっていたように、我々はいま地域にあるもので何を作っていくかを考える時代なのかなと思います。神戸は港町ということで、外国からたくさんの知恵を受け取ってきましたが、農村や漁村に残っている知恵をもっと自分たちで足を運んで見つけに行き、みなさんに知っていただく場を作っていけたらとファーマーズマーケットの運営者として思いました。ご登壇いただいたみなさま、お聞きいただいたみなさま、どうもありがとうございました。
執筆/ 則直建都