北区へ農家探訪。 そして六甲山頂でデビッドさんのバーベキュー(前編)

神戸に暮らす人が神戸の隠れた食の魅力を探求するシリーズ企画。神戸で活動する家庭料理家が、市内の農園を訪ね、農家や外国人の方からレシピのヒントをもらいながら、友人を集めて小さなパーティーを開く。毎回、そんなプロセスを綴っています。

 

案内人は家庭料理研究家の安藤美保さん。小さなパーティー会場は六甲山山頂付近にある貸コテージ『ROKKO COTTAGES』のテラス。今回レシピを教えていただくのは、アメリカ・ポートランド出身、神戸市灘区在住のデビット・グラハムさん。ストーリーはまず、北区の農家を訪れ食材を集めることから始まります。

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記録的な豪雨を連れてきた台風が過ぎ去って、7月の終わりになっても涼しかった神戸にも駆け込む様に夏がやってきました。暑くて寝苦しい夜が何日か続いたあと、少しは夏休みを味わおうと、六甲山でバーベキュー。土曜日の朝から食材探しに向かいます。向かう先は神戸市北区の農家さんと直売所。

 

今回ご一緒したのはデビット・グラハムさん(通称デビちゃん)。彼の故郷アメリカの料理は大味で、日本人にとってはつまらないイメージが昔あったのも事実。しかし、デビちゃんいわく、最近はこだわりを持って家で料理をするのが流行っているそう。デビちゃんも2人娘がいるパパ。アメリカでは夏の週末になると家族や娘の友人のためにお父さんがBBQ料理してみんなに振る舞うのがあたり前の文化。今日はデビちゃんのこだわりレシピを教えていただけるとのことで私も楽しみですが、それ以上にデビちゃんが張り切っています。

 

「今日はアメリカの男性のこだわり料理だから、まずは食材でいいものを選びましょう。でも実は僕、野菜はほとんど食べないですよ。苦手だから。」「あらあら。」

 

まず訪れたのは神戸市北区八多町で5年前から農業を営んでいる芝卓哉さん。

 

中央区から六甲山の下を通る新神戸トンネルを抜けると、そこは六甲山の北側、神戸市北区。市街地である中央区の景色からがらりと様子が変わって、山に囲まれた盆地状の地形の中に、ちらほらと田畑が見え始めます。

 

「デビちゃん、今日はどんなお野菜が必要なんでしたっけ。」「今回は、神戸の野菜を使って『ガンボ』っていう料理を作りたいと思っているんですよ。ガンボは、もとはアフリカの言葉で『オクラ』のこと。オクラはもともと西アフリカから、アメリカに持ってきたものなんです。ガンボには、他にもトマトを使います。」

 

芝さんの畑に着くと、まずは芝さんの案内でビニールハウスへ。今はちょうどヤングコーンが旬だそうで、その様子を見せていただくことに。

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「うわっ。これはすごく立派なコーンやなぁ。」とデビちゃん。ヤングコーンとは実が大きくなる前に早どりしたコーンのことで、大きくなれば普通のコーンになります。アメリカでは原種に近い甘くないコーンを大量に育てることで、虫に食べられることなく沢山収穫ができているそう。

 

さてさて、いよいよ本命のトマト。「あれ?デビちゃん、トマトも獲りに行きますよね?」「いやっ、僕トマトは嫌いだから、トマトを獲るのはちょっといいわ…」「えー!」

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「ほら、こちらがトマトのビニールハウスですよ。」「いや、僕はオクラが気になるからそっち見てきます。」「あらら。ちょっと待っててください、一緒に行きますよ。」それにしても見事なミニトマトたち。こちらの農園ではすべてオーガニックでミニトマトを育てているそう。

 

ビニールハウスを出ると、デビちゃんもほっとした様子。「ほら。オクラもいいのがいっぱいありますよ。」「あら、どこどこ?あ、ほんとー!オクラって上を向いて実が成るんですね。」

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こちらのオクラにはデビちゃんもご満悦の様子。「あら、芝さん、あちらにあるのはシソですか?」「あ、そうです。」「このシソ、ジュースにしたら美味しいと思うので少しいただきますね!」

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「見てみて。めちゃくちゃ一杯とったやなぁー!」「あら、ほんと。この時期は色んなお野菜があっていいですね。」オクラやトマト、シソの他にもいくつか野菜を収穫しました。

 

続いては、神戸市北区大沢町神付で4年前から農家をされている中川優さんのところへ向かいます。

 

「中川さん、こんにちは。」「こんにちは。いや、今日いらっしゃると聞いてたから、カボチャ用意してお待ちしてました。」「えー!すごい!おっきなカボチャ…食べきれるかしら。」「ちっちゃいのもありますよ、蒸しても焼いても食べられます。」「あらー、形も色も違って楽しいですね。」

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「さて、ほならトウモロコシを獲りに行きましょか。」「 獲りたてが一番甘くておいしいんですよね。行きましょう。」「うちのトウモロコシはバイカラーという黄色と白が混じる品種を育てています。一番上についているのが一番おいしくて、それを一番成りと呼ぶんですよ。焼き野菜にぴったりですから、沢山獲ってください。」

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「安藤さん、沢山獲ったでー」「デビちゃん、ちょっと食べてみて。このトウモロコシ、生で食べてもすごく甘い!」「えー、どうして先に食べちゃうの、ズルいなぁ。」「ふふ。」

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「あと、よかったらうちのかわいいミツバチたちを見て行ってください。」「え、養蜂をされてるんですか?」「はい。元々はズッキーニの交配用に飼い始めたんですが、そっちはうまく行ってなくて。今は少しずつですがハチミツを獲っています。」「そうなんですね。ハチミツも是非、朝ごはんにいただきたいです。」

「あら。デビちゃんは?」「僕、弟が昔ポートランドでミツバチを趣味で飼ってたんです。それに刺されたのがトラウマでミツバチはダメなんですよ。」「あらら。」

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「ハチミツは5~6月に獲れた分がありますんで、それを使ってください。あと、今カラーピーマンが成っているのでそれもどうぞ。赤や黄色のピーマンで、パプリカより皮が薄くて生で食べてもおいしいんですよ。」

さて、お二人の農家さんを回って新鮮なお野菜を収穫した後は、足りないお野菜を求めて直売所へ。今回立ち寄るのは『大沢ファーマーズマーケット』と道の駅『淡河』。こちらでお野菜や果物をいくつか買います。いちじくと美味しそうなブルーベリーが並んでいたので、明日の朝ごはんにいただくことにしましょう。

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一通り買い物も終えたら、いよいよデビちゃんと六甲山上へ向かいます。山道を車で上りながら、レシピについてデビちゃんが話してくれます。「ガンボというのは、三つの文化が融合した料理なんですよ。アメリカ、ルイジアナ州の料理の一つなんですが、面白い歴史があります。昔、カナダのモントリオールはフランスの植民地でしたが、アメリカと戦争をした時にそこに住んでいたフランス人はルイジアナに避難したんです。ルイジアナには、アメリカンの先住民、また当時奴隷として連れてこられたアフリカ系の人々の文化もありまして、その三つが融合したのがガンボなんですよ。フランス料理でソースの元として使われる小麦粉と油で作られた「ルー」と、アメリカンインディアンのスパイスで「フィレ(File)」といって、ササフラスという木の葉っぱを砕いたスパイス、そしてアフリカの言葉で「ガンボ」と呼ばれるオクラ、この三つを使うんですよ。」

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「おもしろい。ガンボにはそんな歴史があるんですね。」「そうなんですよ。ルイジアナ州の男性は自分のガンボのレシピに誇りを持っています。」「なるほど、ルイジアナの親父の味なんですね。」「そう、親父の味。僕の大学時代のルームメートがルイジアナのニューオーリンズが大好きで、ガンボもよく作ってくれた。それを、自分も大人になって作ってみようかなと思ったんですよ。」「そんなガンボを神戸でデビちゃんが教えてくれる。これも多文化のある地域だから体感できることですね。」

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「いつの間にか六甲山の上まで来てしまいましたね。この近くかしら?」「そうですね。山の上、僕もこんなところに住みたいよ。」

 

食材を車から降ろして、コテージまで運びます。午前中から集めてきたお野菜に加えて、デビちゃんが取り出してきたのはパックに入ったお肉。「デビちゃん、そのお肉は?」「今日はバーベキューでしょ?とっておきの、めっちゃくちゃ美味しいお肉を食べさせてあげるよ。前の日から仕込んできたよ。」「すごい!」

 

集めてきたお野菜を使ったお料理に加えて、何やらデビちゃんのこだわり肉料理が始まる様子です。(後半に続く)

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