秋の朝、Farmers Marketでお買い物。ダリアさんのお家で小さな食事会(後編)

神戸に暮らす人が神戸の隠れた食の魅力を探求するシリーズ企画。神戸で活動する家庭料理家が、市内の農園を訪ね、農家や外国人の方からレシピのヒントをもらいながら、友人を集めて小さなパーティーを開く。毎回、そんなプロセスを綴っています。

 

案内人は家庭料理研究家の安藤美保さん。今回レシピを教えていただくのは、イラン出身、神戸市中央区在住のダリア・アナビアンさん。

 

前編を読まれていない方、まずはこちらよりどうぞ。最後にレシピも紹介します。

 


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さて、Farmers Marketで調達した野菜や、北野で調達したラム肉やスパイスも揃って、いよいよ調理が始まります。ちなみに後ほどハーブも届く予定。まずはケーキとナン作りから始めます。

「今回は二種類のケーキと二種類のナンを焼きます。ケーキ作りは二人でする方が楽。イランではパーティーの準備は10~20人分くらいを母娘で一緒に作るの。デザートだけでも一度に3~4種類は作るのよ。そうやって料理は母から娘へ口で伝わっていく。5年前くらいまでイランでは料理ができない女性はいなかったんだけど、今は少しずつ変わってきてるみたい。」

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「生地には自家製の自然酵母を使います。」「あ、それは私も。毎回使うたびに水と小麦を少しずつ足していけば、ずっと使えるから便利よね。酵母が生きていると、それが免疫力強化にもつながるのよね。」「あと、ケーキの生地にはバラ水やオレンジ水をよく使います。今回はバラ水。すごく香りが良くなるの。」「そういえば、バラもペルシア特産よね。」「そうそう!」

 

「ケーキは二種類作ります。普通のケーキは卵白をしっかり泡立てるんだけど、これは野菜ケーキなので、あまり泡立てないの。」「どうして?」「野菜がドッシリくるから、卵白を泡立ててもあまり意味がないの。」「なるほど。」

 

「ナン生地は5分以上練らないのがポイント。これは練らないナンなの。」「練らないの?あら?これは練り過ぎた?」「え、うそ。あらーガッチガチ。ちょっとなんとかしてみるわ。」DSC_28641-1024x684DSC_28922-1024x684

「こうなるまで、よく頑張って練ったわねー。だけどこれは作り直しましょうか。この生地は何かに他に使うわ。」「ごめーん。生地を練らないなんて、初めて聞いた。」「そうなの。練らない方が、生地がリラックスして柔らかい仕上がりになるの。逆に私からすれば、どうしてパンを作るときにあんなに練るのか、不思議。NYとかでは今、練らないパンが流行っているらしいけど、ペルシアではずっと昔からパンは練らないものよ。」

 

「ほら、これくらい柔らかい生地で大丈夫。」「あら、簡単。」「そう、名付けて、ナーンテカンタンナン。」「それいいね!」

 

「ペルシアでは、野菜が主食みたいなものなの。実は、ほとんどの野菜はペルシア原産なのよ。パセリとか、ニンジンとか。色んな食材を使った色んな料理があって、西洋料理の母と呼ばれてる。ペルシアの料理が、イタリアに渡って、そこからフランスに伝わって今の西洋料理があるから。東側にも、ペルシアをアラブの国が占領した時、中国の唐に王族が逃げたのね。その時に唐ではペルシアの料理がもてはやされたんだって。チーズもそうやって中国へ伝わったの。」「全部シルクロードで繋がってるのね。」「そうそう。日本の正倉院にもペルシアの品があるでしょ?」

 

「さて、こっちは野菜ケーキ。」「ニンジンたっぷりね。」「そうそう。そういえば、2500年前アレクサンダー大王もペルシアの野菜をたくさん使った料理を見てびっくりしたんだって。」「私は今、そのアレクサンダー大王の気分だわ。」DSC_2798-1024x684DSC_29421-1024x684DSC_28301-1024x683

「ケーキだけでも50種類くらいレシピがあるの。ペルシアの料理は歴史が古いけど、ケーキだけは西洋の影響を受けていて、まだ歴史が浅いのよ。さてさて、これはあとクルミとクランベリーを入れたら型に入れて焼きましょう。そろそろ最初のケーキが焼けるわ。」「あら、もう?! 同時進行だと次々できていくわね。」DSC_3105-1024x684

「わあ、きれいな焼け具合。」「でしょ?ケーキにはシロップをかけて染みこましておくの。」

 

「さあ、ちょっと休憩しましょうか。まだまだ作るものはたくさんあるんだけど。」「いいわね。お茶にしましょう。」

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「これは、Farmers Marketで買った柿よ。それとハーブのペルシア風お好み焼き。ニラ、玉ネギ、パセリ、コリアンダー、ネギがたっぷり入ってるの。」「すごい、おいしそう。あら、そうしている間に少しずつナンの生地も膨らんできた?」「生地は2倍に膨らんだら絶対オーケー。もう少し待ちましょう。さて、お茶をどうぞ。」

 

「そろそろ友達が採れたてのハーブを届けてくれる時間だわ。」「兵庫区の山羊堂さんが栽培しているハーブたちね!あ、来たみたい。こんにちは!」DSC_3052-1024x684DSC_30721-1024x684

「わあ、カゴいっぱいのハーブ。これは贅沢だわ。」

「何種類くらいあるのかしら。ルッコラもビロードみたいに厚いわね。」「ホントに!ペルシアより豪快。嬉しいわ!」

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「さて、ではポトフにも取り掛かりましょうか。」

「材料はこんな感じかな。豆は、ひよこ豆と白インゲンのミックス、ラム肉はドサッと。」「このクルミみたいなのは?」「これは、オマーンのライム。オマーンからペルシアまで運ばれてくるんだけど、途中砂漠を通るから昔は実がカチカチに乾燥したのね。今は好んでカチカチにしてるんだけど。この方が香りが立つのよ。」「そのまま入れるの?」「ええ、皮をむかずに穴を開けて入れます。」

 

「すごい、豪快。ちょっと出来上がりが想像できない。」「でしょ?最後はね、これを煮込んで柔らかくしたのを潰して食べるの。」「完成がすごく楽しみ。」「まずは、ここに水をひたひたに入れます。」

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「さて、なべはしばらく煮込み続けるから、その間にナン作りをしましょうか。」「あ、ほんと。大分生地も膨らんできてる。」

 

「生地はね、ウェットでベチョっとしているので、コネて延ばすんじゃなくて、指で押して広げる感じ。」「なるほど。」「その上に、それぞれナンの種類に合わせて味付けをするの。」

 

「ほうほう。どんな味付け?」「あ、ちょっと待ってね。ケーキ忘れてた!あら、少し焼き過ぎたかも。」「大丈夫?」「うん、ちょっと粉砂糖でごまかします。」「フフ、そういうこともあるのね。ホントに色んなものが同時進行で、すごいわぁ。」

 

「で、味付けね。卵と砂糖を混ぜたものを塗って、その上にチアシードとゴマを振ります。ゴマもペルシア原産なのよ。」「そういえば日本のゴマはトルコ産が多いわね。やっぱりシルクロードなのか。」「そうね。あ、あとターメリックも欠かせない。菓子ナンの方には沢山使ってます。ペルシア料理にとってのターメリックは日本料理の醤油みたいなものなの。」「あら、そうなの?日本ではウコンってあまりおいしくないものっていうイメージだけど。」「あれは摂り方がおかしいわ。ペルシア料理ではよく使うのよ。ちなみにウコンが体にいいのは知られているけど、チアシードもイランでは風邪でのどが痛いときに飲むといいっていう民間療法があるのよ。」

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「じゃ、ダリアさんに負けないように私もそろそろ料理に取り掛からないと。私は里芋のフリットのために、さっきから里芋をふかしてたのよ。」「あら、いつのまに。」

 

「里芋は、このまま皮を剥いただけだと繊維が残っちゃうので、一回手で握って繊維をほぐしてから揚げるとホクホク柔らかでおいしいのよ。」「それは良いことを聞きました。今度私もやってみるわ。」

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「じゃ、里芋のフリットの隣で、私はホウレン草のソテーを作ります。これにヨーグルトを和えると美味しいのよ。今日は弓削牧場のフロマージュフレを使ってみるわ。」「じゃあ私はもう一つ、柿とカブラのグリルサラダも作ります。」

 

 

「さて、ポトフも完成!これを鍋ごと食卓に運んで、食べるときに専用の壺に移して棒ですり潰しながら食べるの。」「楽しそう!」

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「ケーキにナンに、ポトフに…すごい、パーティーっぽくなってきた!」「あとは、料理を全部テーブルに載せるだけね。」「載るかしら、こんなにたくさん。」「わたしのお母さんも呼んできますね。」

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「さて、これで全部かしら。」「すごいわ。これがペルシアのパーティーね。食べきれるかしら。」「フフ。では皆さん、お待たせしました。さあ乾杯しましょう!」「かんぱーい!」

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「さっそくポトフを食べてみたいな。」「じゃあ、まずは壺にうつして、専用の棒ですり潰しましょう。」ダリアさんのお母さんが食べ方を教えてくださいます。

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「つぎはナンをナイフで開いて、そこに潰したポトフを入れて、最後にハーブを好きなだけ挟むのよ。」

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「すごい、ハーブをそのまま入れるなんて斬新。一口一口味も香りも違うから食べててすごく刺激的。」「イランではみんな食卓にハーブを置いて、ちぎって食べますよ。でも、こんなに豪華なのは本場のイランでもないわ。」

 

「この家では20人くらいの友達を呼んでホームパーティーするんだけど、神戸は美味しいものがいろいろ近くで手に入るから、準備するのも楽しいわ。神戸のものばかり集まったファーマーズマーケットも強い味方ね。」

 

ディナーを楽しんだ後は、ミントの枝を入れた紅茶とデザートのケーキ。

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たくさんのお料理でしたがお肉類はポトフのラム肉だけで、どのお皿も野菜がふんだんに使われ、どのお皿も素材の味を尊重した優しい味でした。

 

「ペルシア料理には、主役がないの。ペルシア絨毯の柄みたいに、どれがメインということはなくて、材料はみんな平等に使われるのよ。」「なるほど。すべてが調和していて素敵ね。」

 

「またホームパーティーをしましょうね。イランの人たちだけじゃなく、神戸っ子もホームパーティーが大好きでしょ?!」「ぜひお願いします。もっとペルシアのことが知りたくなったわ。ダリアさん、今日はペルシアの世界へお招き頂いて、ありがとう。ごちそうさまでした!」

 

わたしたち市民が「食」を通じて交流することで、もっともっと魅力的な町になりそうです。

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*ところで北野のお庭で収穫した柿は、ダリアさん宅の窓辺で干し柿に、トマトはペルシア風ピクルスになりました。


 

ストーリー中に登場した料理のレシピ

RECIPE 010:ダリアさんの野菜ケーキ

RECIPE 011:つぶして食べるポトフ

RECIPE 012:柿と小カブのローストサラダ

RECIPE 013:里芋の米粉フライ

RECIPE 014:和梨のコンポート