冬の海。ワカメ狩りにポールさんが須磨へ朝の散歩。冬のアウトドアレシピ。(前編)
神戸に暮らす人が神戸の隠れた食の魅力を探求するシリーズ企画。神戸で活動する家庭料理家が、市内の農園を訪ね、農家や外国人の方からレシピのヒントをもらいながら、友人を集めて小さなパーティーを開く。毎回、そんなプロセスを綴っています。
今回レシピを教えていただくのは、アメリカ出身、神戸市中央区在住のポール・アピスさん。
今回のストーリーでは初めての海へ!ポールさんが、毎年ワカメ狩りに行くという友人に誘われて、須磨海岸にやってきたところから始まります。
暦の上では春に変わり、雨上がりの暖かい朝に、ポールさん達が訪れたのは神戸市須磨区にある須磨海岸。日射しを受けてキラキラと美しい冬の海を眺めながら、気持ちのいい朝の散歩といった感じです。隣を歩くのはカナダ人のジャイルズさん。その後ろをデンマーク人のテレサさんが歩きます。今日は友人に誘われて3人でワカメ狩りに来ました。
「ワカメ?ノリならわかるけど、何が違うの?」というポールさん。ワカメ狩り、といわれてもイメージが湧かない様子。
「外国人にとって、こういうローカルなイベントってなかなか経験できないものだから楽しみだよ。初めて神戸に来た時、海沿いの街だから大きな魚市があるんだろうと思ったんだけど、中央区で見かけることはなかった。最近になってようやく釣りに出かける機会があって明石まで行ってきたけど、神戸にも漁業ってあったんだね。それも、こんな近くに!」
海岸をしばらく歩くと、海苔工場が見えてきました。今日のワカメ狩り会場は、この工場です。近づいてみると、たくさん人が集まっています。ワカメ狩りに来る人向けの物販ブースの様ですね。地元の海産物を使った商品が並んでいます。
「おはようございます。」
「スミマセン、コレハナンデスカ?」
「ちりめんじゃこですよ。どうぞどうぞ。」
「アリガトウゴザイマス。」
ポールさんがちりめんじゃこに興味津々だった間に、ジャイルズさんはパンを手に入れていました。
「ジャイルズ、それはなんだい?」
「いかなごパンだってさ。」
「いかなごパン?クール!僕ももらおう!」
いかなごパンを朝食代わりにつまみながら、3人でワカメ狩り会場へ向かいます。
「おはようございます。ようこそ。今日は宜しくお願いします。」「ヨロシクオネガイシマス。」
会場で迎えてくださったのは須磨漁業組合の若林さん。さっそく収穫するワカメのある場所に向かいます。
「沢山の方がいらっしゃってますね。」
「そうですね、ロープの本数は320本あり、毎年1本3,000円でワカメオーナーを募集しています。オーナーの方は、みなさん収穫日にご家族やお友達といらっしゃっていますよ。さあ、こちらが収穫していただくワカメです。」
「わお。ワカメ狩りってこれを収穫するんですね。」
「そうですね。ワカメは葉先の方からワカメ、茎ワカメ、メカブの3つの部分に分かれています。茎ワカメとメカブは一緒でも構いませんがワカメは別に収穫した方が後で調理しやすいですよ。」
「ジャイルズ!ほら、ものすごく海の香りがするよ、このワカメ。」
「そりゃそうだよ、ポール。この柔らかくて海の香りがいっぱいのワカメをパーティーで安藤さんに料理してもらうのが楽しみだ!あぁ、今日は参加したがってたのに残念だったね。」
「ところで、どうやってこのワカメを育てるんですか?」
「まず10月から12月の間に種苗を水槽で育てます。そして育った苗をロープの隙間に挟み込んで海に出して2か月間置きます。ロープに挟み込む作業もオーナーさんにお願いしているんですよ。」
「ワカメ狩りイベントは今回で4回目です。須磨といえば海水浴のイメージが強いけれど、漁業をやっている人達がいることを知ってほしくて始めました。須磨の漁師はオフシーズンに海苔づくりを行っているのですが、ワカメであれば育てるのは海苔より手間はかからないので、収益は少ないけれども、より多くの人達とつながるキッカケになればという思いで開催しています。おかげさまで、たくさんの人に神戸の漁業を知ってもらえました。では後で、海苔工場にご案内しますね。」
「海苔工場ですか。わお。クール!」
「このタンクの中では、目の前の海で採れた海苔を海水で循環させて洗います。かき混ぜることで不純物を取り除くんです。この海苔はまだ生きているんですよ。」
「すごく大きなタンクだ。どれくらいの間稼働しているんですか?」
「海で10月から4月の間海苔を育てていて、12月から4月くらいまで順次収穫してタンクに入れています。」
「なるほど。その時期だと台風の影響があるんじゃないですか?」
「はい、あります。そもそも海苔の生産というのは、内海の海が静かな地域でしかできないんです。国内生産のほとんどは有明海がある佐賀県です。佐賀と随分差があいて、実は兵庫県が日本で二番目の生産地です。でも台風が来ると内海と言えど網が破れたり、ロープが切れたり、海が荒れて沖に出られなかったりと、様々な面で悪影響が出てしまうので痛手ですね。」
「これだけ素晴らしい設備、オフシーズンに日本酒でも作れそうじゃないですか。」
「あはは!いえいえ、海苔のオフシーズンには、私たち漁師をやっていますから。」
ポールさんの楽しい人柄で、すっかり打ち解けてきたようです。
「さて、工場は以上になりますが、よかったら先ほど採ったワカメをしゃぶしゃぶにして食べてみてください。」
「しゃぶしゃぶって肉だけじゃないんだね。おお、みるみる色が変わる!」
「茹で上がったら、少しポン酢をつけて食べてください。」
「うん、おいしい!思っていたよりマイルド。もっと潮の香りが強いと思ったのに。」
「まったく、日本人はいつも美味しいものを食べているね。こんなに美味しくてヘルシーなものを食べてるなんて、おどろきだよ。」
さて、ワカメを美味しくいただいた後は、須磨海岸近くにあるナナ・ファーム須磨へ。
ここでは、地元の野菜や海産物も取り扱っています。今回のパーティーのために必要な食材を探します。
真剣な表情で魚を選ぶポールさん。
「この魚、このまえ明石で釣りをしたときに釣った魚だ。名前は…ガシラ!美味しかったから、是非料理したいね。」
「僕はパーティーでスープを作ろうと思うので緑色の野菜を探そう。たくさん新鮮なものがあって、こういうお店に来るとついつい興奮して買いすぎてしまうよ。」
最後に、ワインを選んだポールさん。ワカメ以外の食材もこだわって選べたので、ご満悦の様子です。
ナナ・ファーム須磨の広場では、ちょうど鰤の潮汁が振る舞われていました。「わあ、これも海の香りがいっぱいで素晴らしく美味しいね!」今日は朝からお昼時まで、たっぷり神戸の海を満喫できたポールさんでした。
須磨海岸エリアでの食材集めはこれでおしまいです。明日は場所を西区に移し、アウトドアでパーティーです。さて、ポールさんはどんなレシピを披露してくださるのでしょうか。採れたてワカメを取り入れた安藤さんのレシピも楽しみです。どうか明日も晴れますように!(後編はこちら)