高山なおみさんと神戸の暮らしシリーズ ・秋 「秋色のアペリティーボ」


料理家・文筆家である高山なおみさんと一緒に「神戸のおいしいもの」をお届けするシリーズ。今回は、食と神戸暮らしの楽しみを季節ごとにご紹介していきます。
まずは秋。神戸らしい坂の上にある、高山さんと山本文子さんが暮らすマンションへ、アペリティーボにおじゃましました。

※アペリティーボとは
夕飯のまえ、夕暮れ時におつまみをつまみながら、家族や仲間とお酒を楽しむこと。会話を楽しみ、暮らしに彩りをくれるもの。

六甲山の南側にある街は、どこも坂の街。神戸には東の端から西の端まで、個性豊かな坂の街が連なります。そんな街で「窓からの景色を楽しむ」といえば、もちろん南側の海や街の夜景などですが、加えて北に広がる四季折々の山々と木々も愛でるというのは神戸ならでは。
高山なおみさんがお住まいのエリアも六甲山南斜面の麓。坂を上ったご褒美として、山の光と風に包まれた、空や山に近い暮らしをされています。

そんな坂の上には、カフェでちょっとコーヒー、忘れものしたからコンビニ!友だちと待ち合わせて軽く一杯♪なんていう気楽さはありません。でも代わりに、おうちならではの楽しみをそれぞれに見つける文化があります。今回は、そんな坂の上の暮らしのひとこまです。
高山なおみさんと巡る、神戸の暮らしシリーズ・秋(レシピ付き)、どうぞお楽しみください。

 

Today’s Menu
今回文子さんが作ってくれた、いちじくを使ったメニューたち

「スタッフドオリーブフライ」 &「オリーブオイル+バルサミコ酢とサワードウブレッド」いちじく添え
 “Fried stuffed olives” & ”Sourdough bread with olive oil and balsamic vinegar”  served with figs
いちじくとベーコンのタルティーヌ / Fig and bacon tartine
バターナッツのオーブン焼き/Roasted butternut squash
いちじくのキャラメリゼ サワークリーム添え/ Caramelized figs with sour cream)

 

朝:北区・いちじく農家「One’s Fig Farm」さんへ


EAT LOCAL KOBEのあゆみさん(小泉亜由美)が、北区淡河町でいちじくを栽培されているOne’s Fig Farmさんを訪ねました。ここでは、農薬や除草剤、化学薬品などを使わず、植物や昆虫など小さな生命との共存共栄を大切されています。


あゆみさん「こんにちは!いつも美味しいいちじくをありがとうございます。あ!ジーニーちゃんだ!いつも一緒にいられて、ワンちゃんも幸せですね」
One’s Fig Farmさん「農業はいいよ。愛犬とも一緒に仕事ができるし。One’s Fig FarmのOne’sはオンリーワンって意味とワンちゃんのワンなんだよね、実は(笑)」


国内ではめずらしい黒いちじくはフランス産のヌアールカロン。水分が少なく濃厚な甘みが特徴です。他にもギリシャやアラビアを原種としたいちじく(バローネ、コハク、ドリーミースイート)が育てられています。


さて、今日の主役はいちじく。あとはワインを買っていこうかな!

 

午後:高山なおみさんと文子さんが暮らすマンションへ


「あ、あゆみさんだ!」と、窓から手を振るなおみさん。


カゴいっぱいの秋の味覚とコスモスを持ってきたあゆみさんを出迎えて、一緒に階段を上っていきます。そう!今日は同じマンションの文子さんのお宅で、いつもなおみさん達が楽しんでいる習慣、アペリティーボにおじゃまする約束をしているんです。


「いらっしゃい〜」と出迎えてくれたのは、文子さん。最近、夫のファビオさん(イタリア人)と一緒に、なおみさんと同じマンションへNYから引っ越して来られました。お2人もなおみさんも在宅で仕事をされていて、仕事終わりのアペリティーボがいつもの楽しみに。


キッチンには大きな窓。神戸の海も山も見晴らせる特等席です。吹き込む風が気持ちいい!


みんなでいちじくの食べ比べ。どのいちじくをどんな風に食べようかな?
「それぞれ味がちがって、どれもおいしいね」


まずは、いちじくに合う二人の大好物からつくることに。

 

スタッフドオリーブフライ いちじく添え/ “Fried stuffed olives” served with figs


文子さんファビオのママに教わったレシピは、皮をはいだ生のソーセージをオリーブに詰めるのだけど、今日は作りやすいようにひき肉を使うね。パルメジャーノはこんなに?と思うほど多めにいれると美味しいよ」
なおみさん「この前美味しかったスモークソルト合うんじゃないかな?ソーセージっぽさも増しそうだよね」

そんな会話から調理がスタート


チーズを削るのは、いつもファビオさんの役割なんだとか。


・合い挽き肉にスモークソルト、黒胡椒、ナツメグ、たっぷりめのパルメジャーノを入れて混ぜ合わせタネをつくる。種無しオリーブに切り込みを入れて、丸めたタネを詰め、小麦粉、卵、パン粉をまぶして、カリッと揚げたら完成!

ふみこさん衣の卵を溶くとき、少し油をいれると卵白が切れやすくなってからめやすいよ。ニューヨークにいたときに友達に教えてもらったの
なおみさん「え〜おもしろい。私は卵を水で薄めたりするよ」


おしゃべりがたえないキッチン。窓辺では、イタリアでのアペリティーボの意味や楽しみについての話も。

ファビオさん「アペリティーボがあると、夕暮れが近づくにつれてもうひとがんばりしようと思えるんだ。きっと、それはどこの国でも同じだよね」
あゆみさん「日本でもハッピーアワーとかあるもんね。同じだね、確かにがんばれる!」

 

名もなきおやつ


揚げ物のときに余った衣(パン粉や卵、小麦粉)は、気持ち強めに塩を入れて焼いておやつに。
イタリアでは取り合いになるくらい、子どもたちにも人気のおやつ。衣が余ったときだけ登場する、あったらラッキーな”名もなきおやつ”だそう。

文子さん「これがなんともいえないおいしさで。だから、衣を余らせて捨てる時の後ろめたさがなくて気持ちがいいよね」


「料理は途中だけど、もう乾杯しちゃおう!」

 

「オリーブオイル+バルサミコ酢とサワードウブレッド」いちじく添え
“Fried stuffed olives”&”Sourdough bread with olive oil and balsamic vinegar”  served with figs


ファビオさんはバルサミコ酢の聖地イタリアモデナの出身。ご実家ではお爺さんの代から継ぎ足しながら、伝統的な製法で家族分のバルサミコ酢を作られています。上品な酸味と口いっぱいにひろがる旨味にびっくりです。
また、ご実家ではさくらんぼをはじめ農産物も栽培されているそうで、ファビオさんも農に関心があるんだとか!いつか一緒にケハレに行きましょう!


文子さんが今朝焼いてくれたサワードウブレッド。ご自身で天然酵母も起こされているそうです。まずはシンプルに、無花果とバルサミコ酢、オリーブオイルをつけて。

 

いちじくとベーコンのタルティーヌ  Fig and bacon tartine


・焼いたパンに半分に切ったニンニクの断面を軽く擦りつけてオリーブオイルを薄く塗り、サラダ野菜とカリッと焼いたベーコン、輪切りのいちじくをのせる。最後に、 アクセントに結晶塩と粗びき唐辛子を、ほんの少しかけたら完成!

文子さん「いちじくと合わせるとき、トーストしたパンにはニンニクの香りをほんの少し移す程度に。ベーコンは種類によってはカリカリだとドライになりすぎる場合があるのでお好みでね。最初に口に触る塩が、次に来るいちじくの甘さを引き立ててくれるのがポイント♪」


わあ。かぶりついたら口いっぱいに幸せがじゅわっと…!


ワインにもよく合うね。

 

バターナッツのオーブン焼き/ Roasted butternut squash


オーブンに入れていたバターナッツも焼き上がりました!
・皮付きのまま半分にカットしてワタをくり抜いたバターナッツに、オリーブオイル、塩、胡椒、メープルシロップをかけて、210℃のオーブンで40分〜60分焼くだけ。



ファビオさんが食べたキンカンの種をここまで育てたそう。好奇心でやってみたけど、まさかここまで大きくなるとは…ファビオさんもびっくり!
ファビオさん「いつかこれをどこかに植えたいな」

 

つぎは、テーブルを囲んで


おいしい食事とお酒で心もとけて、神戸での暮らしやお家えらびなんかのお話に。

ファビオさん「神戸での暮らしは、静かで、自然も近くて。ここにいると、自分の中にもぐることができる」

文子さん「わたしも同じで、うーん…贅沢!すごく。山があって海があって空があって、太陽の光と同じように生活ができて、すごくスペシャルでラッキーだと思う」

なおみさん「子供の頃、ひいおじいちゃんが建てた木造の古い家に住んでいたんだけど、その家の記憶がたくさん残っているの。その家は、もうつぶしてしまって跡形もない。小さい頃には、その良さが分からなかったけど、今だったらわかる。神戸は、そういう古くていいものがあちこちに残ってる気がする。それと、ちょっと外国の匂いがするの。港があるからかな。」

文子さん「料理がすきな私にとって、おいしい素材がたくさんあるのもすごく大事だと思う。神戸では、野菜も魚も肉も、近くで育てられているものが買えるって本当に贅沢。それに、少し歩けば商店街もあって、ご家族で商っている小さなお店があるのも素敵だよね。そのクオリティーの高さにも驚きます。ファビオも私も、そんなお店で買物するのがだいすきだよね」

なおみさんは東京から、文子さんとファビオさんはニューヨークから神戸に移住し、偶然同じマンションで出会った3人。そんな3人からのお話からは、移住者だからこそ感じる神戸の良さや、暮らしを楽しむヒントに溢れていました。


空もコスモス色に


あっという間に夕暮れ。みんな思わず「わあ…!」と、時間が止まります。

 

いちじくのキャラメリゼ サワークリーム添え/Caramelized figs with sour cream


・小皿にラム酒を準備し、くし切りにしたいちじくの片面にラム酒を浸けてからもう片方には鍋からキャラメルをつける。最後に自家製のサワークリームをのっけたら完成!

文子さんニューヨークでいちじくの季節によく作っていたデザート。白いラム酒を使うといちじくの香りが、黒いラム酒だとラムの香りがたつから、そこはお好みで。 今日のいちじくはフレッシュで香りがすごくいいから、やっぱり白いラム酒!

・自家製サワークリームの作り方
100ccの生クリームと、大さじ1.5のヨーグルトを煮沸消毒した瓶に入れてよく混ぜる。(乳酸菌が働きやすくするため、瓶の蓋は固く閉めず軽くのせる程度に)ヨーグルトメーカーで40度で7時間、そのあと冷蔵庫で半日ほど発酵させると完成。(冷やすことで発酵が進み、酸味が増しさらに固くなる)
生クリームは乳脂肪が高いほうはまろやかでコクがあってしっかり固まり(オススメ)、低いのは軽くてさっぱり柔らかい仕上がり。

文子さん「きっとヨーグルトメーカーがない人も多いはず。でも常温でも大丈夫。その場合は、20度以上のできるだけ暖かい場所で、瓶を少し傾けてとろりと流れるまで、1日〜1日半ほどかけて発酵させ、 蓋を閉めて冷蔵庫に移してから一日ほど発酵させるよ。私は、日中は一番日向が当たる場所、日が暮れたらデスクライトの真下、寝る時はwifiルーターとモデムの間に、なんていう感じで場所を変えながら。日の当たるの場ではタオル等で直射日光を避けてね」


そろそろアペリティーボも終わり。

なおみさん「今日は特別なアペリティーボ。ふだんは、お互いの冷蔵庫からそのときにあるものを持ち寄って、ビールやハイボールで乾杯。カレーを作ってあったら、鍋ごと持っていってそのまま夕食に突入することもあるの。だけど、たまにはこんなアペリティーボもいいね。楽しかった〜またやりたいな!」


文子さん、ファビオさん、今日は坂の上の暮らしの楽しみ方を体験させていただき、ありがとうございました。
夕日をみながら「今日もおつかれさま」とお互いを労うときにも、休日の午後をゆっくり味わいたいときにも。出かけなくても、お家でこんなに楽しめるっていいですね。

 

アペリティーボを終えて

文子さん「いつもはなおみさんと3人で「昨日は何食べた?」「雲の流れがはやいね」なんておしゃべりしながらアペリティーボ。この日はあゆみさんも一緒に!仕事を終え、みんなで夕暮れの空を眺めながらの乾杯はとっておきの時間でした。丁寧に育てられたいちじくは見惚れるほど愛らしく驚きの美味しさ!またひとつ神戸の秋の楽しみが増えてうれしいな。」

ファビオさん「Enjoying an aperitif together is an opportunity to get to know each other.For me, one on one or in small groups is best. In Kobe, “Aperitivo” has given me the chance to make new friends, and to get to know more about my newly-adopted city!
食前酒を一緒に楽しみながら過ごすことはお互いのことをよく知ることができる機会です。1対1か少人数のグループが僕にとってはベスト。神戸のアペリティーボは僕に新しい友人を作り、新しく暮らし始めた街をもっと知るチャンスを与えてくれます!」

なおみさん「朝、収穫したばかりのいろいろな種類のいちじく。私ならそのまま食べるか、ヨーグルトをかけるくらいしか思いつかないし、それだけでも満足なのに……甘い、酸っぱい、しょっぱい、香ばしさまでもが加わったいちじくの楽しみ方。ワインにもぴったりで、最高においしかった! 文子さんの料理は、やっぱり外国の匂いがするなあ」

大きな窓のそばで空色の移ろいを感じながら、秋の夕暮れを楽しみました。
みなさん、おうちで楽しむ”秋色のアペリティーボ”はいかがでしたか?

料理風景やインタビューの内容などを収録した動画は、来年公開予定です。お楽しみに♪

 

Special Thanks:
高山なおみさん、ファビオさん、山本文子さん
動画撮影:有限会社 Lusie 原さわこ
写真撮影:有限会社 Lusie 久保陽香

制作:一般社団法人KOBE FARMERS MARKET / 有限会社Lusie

高山なおみさんと神戸の小さな旅シリーズ
「①おいしいを見つける、海と田畑の神戸旅」

「②今あるものでつくる、神戸のごはん」

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