高山なおみさんと神戸の暮らしシリーズ ・夏 「森のモーニング」
Today’s Menu
手作りサワークリーム/Homemade sour cream
ババガヌーシュ(アラブ風焼きなすのペースト)/Baba Ganoush
ブリヌイ/ Russian pancakes
スモモとトマトのスムージー/Tomato and plum smoothie
スイカの皮のサラダ/Watermelon rind salad
高山なおみさんと神戸の暮らしシリーズ ・夏 「森のモーニング」
料理家・文筆家である高山なおみさんと一緒に「神戸のおいしいもの」をお届けするシリーズ。この一年は食に加えて、神戸暮らしの楽しみもあわせて、季節ごとにご紹介してきました。
昨年秋の「アペリティーボ」に始まり、冬の「ポットラック」、春の「ピクニック」と、みなさんと一緒に神戸のいろんな場所に出かけ、季節の食材と、おいしい食べかたを共有してきましたが、時が経つのは本当にはやく、気がつけばシリーズも最後を迎えます。
今回は、神戸の夏の避暑地であり、四季折々の表情で私たちを癒してくれる六甲山へお泊まりに。テーマは「モーニング」です。森のなかで朝ごはんをいただきます。
こうして思い立ち山に出かけると、薄暗い森の向こうから強く差し込んでくる朝日や、木々が吐き出す透明な酸素、豊かな腐葉土の匂い、小さな虫や動物たちの活発な気配、雨や霧が見せてくれる幻想などに出逢えます。日常の近くに自然があってくれるおかげで、私たちは日々の忙しさのなかにあっても「自分を取り戻す」きっかけに恵まれています。そんなことを再認識するような、ちいさな旅になりました。
高山なおみさんと巡る・神戸の暮らしシリーズ・夏(レシピ付き)、読んでいただく頃は秋冬となります。秋の夜長に、朝の温かいお茶と一緒に、どうぞゆっくりとお楽しみください。
夏休みのはじまり
「次は、夏休みっぽく、森の中でモーニングしたいね」と、須磨のピクニックで話していたので、なおみさんとあゆみさんはROKKONOMADに出かけることにしました。
ROKKONOMAD(ロコノマド)は、六甲山上にあるコワーキングスペースで、森のなかで合宿やミーティングができる施設です。レジャーで六甲山を訪れるひともコテージに宿泊し、気持ちの良い山の空気の中で暮らすように滞在することができます。
なおみさんは、以前雪のロコノマドに遊びに行ったことがあります。その時からいつか泊まってみたいなとおっしゃっていたので、お泊りがてら出かけることに。
なおみさんのお家で
ある日の午後、なおみさんはカゴいっぱいに夏の味覚を持ってきたあゆみさんを出迎えて、3時のお茶しながらお喋り。
なおみさん「そろそろ準備しよっか」と、とれたての神戸の食材を使って明日のモーニングの仕込みをはじめます。
ババガヌーシュ(アラブ風焼きなすのペースト)/Baba Ganoush
〈材料〉
なす(大きめ)2本
にんにく 1/2片
A
白ごまペースト 大さじ1強
レモン汁 大さじ1
EXVオリーブオイル 大さじ1と½
クミンシード 小さじ½
塩 小さじ1
なおみさん「このババガヌーシュは、文ちゃん(秋色のアペリティーボでご一緒した山本文子さん)のを食べてすごくおいしかったからよく作るようになったの。なすをよく焼いてスモーキーな香りをつけるのと、水分をしっかり取ることがポイントだと教わりました。」
なすは強火にかけて網にのせ、皮が真っ黒になるまで焼く。トングでつかんだときにブワッとつぶれるくらいになったら、火から外し皮をむきます。
ここはすばやさが肝心!氷水で指を冷やしながら、熱いうちに皮を剥きます。
バットに網を重ね、皮を剥いたナスをのせて、しばらくおいて水気を切ったらキッチンペーパーで押さえ、余計な水分を吸い取り、ざく切りにします。
フードプロセッサーにニンニクを入れて細かくしてから、焼きナスと材料Aを加えて撹拌します。
ねっとりしたペースト状になったら容器にいれて、冷蔵庫で冷やしておきます。※保存容器に移し入れ、冷蔵庫で2〜3日保存可能です。
そうしていたら、玄関のチャイムがなりました。
なおみさん「あ!ファビオだ!(秋色のアペリティーボでご一緒したファビオさん)」
なおみさんに借りていたという本を、届けにきてくれたファビオさん。
なおみさん「この本にババガヌーシュが出てきて、おもしろかった
出典:ウンム・アーザルのキッチン (たくさんのふしぎ2024年6月号)
手作りサワークリーム/Homemade sour cream
明日の朝ごはんは、ブリヌイ(ロシア風イースト入りパンケーキ)を米粉でつくることにしています。そこで、ブリヌイによく合うサワークリームを仕込みます。
なおみさん「これも文ちゃんに教わったレシピだよ。ヨーグルトメーカーを持ってないので、私のはなんちゃってだけど簡単にできるから、あゆみさんもやってみて」
去年の秋、いちじくのキャラメリゼにも登場したサワークリーム。なおみさんは、文子さんのレシピをアレンジしてよく作っているそうです。
まず、よく洗った空き瓶に、生クリーム100mlを入れ、ギリシャヨーグルト(なければ水切りしたヨーグルト)大さじ1を加えてよく混ぜます。小鍋にお風呂よりちょっと熱いくらいの湯(40度〜45度)を沸かして、そのビンをつけます。火を止めるので、湯煎というよりは、温めたお湯につけておく感じ。
乳酸菌の働きを助けるために、フタはきっちりと閉めずに、隙間をあけて乗せておくだけ。ときどき混ぜます。
お湯が冷めてきたら温め直し、頃合いの温度にしてまた浸ける。その繰り返し。2〜3時間するともったりとして固まってくるので、フタをして冷蔵庫へ。冷やすとさらに固まります。
なおみさん「市販のサワークリームよりも軽くなめらかで、ロシアで食べたスメタナによく似ているの。あゆみさんも食べてみて」
あゆみさん「わあ、おいしい!わたし大好物なんですけど、軽くてふんわりしてるけど濃厚ですね。このサワークリームといちじくをこんがりトーストにのせて食べたいな」
スイカの皮のサラダ/Watermelon rind salad
なおみさん「私はいつも、ヨーグルトをかけて食べる朝ごはん用のスイカをカットして保存しておくんだけど、残った白い部分は、緑の外皮を削いで塩でもんでサラダにするとおいしいよ。出てきた水分もそのまま容器に入れて冷蔵庫へ。汁ごとシャクシャクと食べます。今回はディルも入れてみたの」
あゆみさん「いいですね!ディルなしで、夏休みのこども食堂でも作ってみます。ココもおいしく食べられるんだ!って子供たちに知ってほしいし、生ゴミも減るから丁度いい」
植物の水やりも忘れずに。さて、六甲山へ出発です。
泊まれる森のステーションROKKONOMAD
おはよう
なおみさんは、森の朝散歩をずっと楽しみにしていました。六甲山上では、夏でも紫陽花がきれいです。早朝は涼しくて気持ちいい。
スモモとトマトのスムージー/Tomato and plum smoothie
なおみさんが朝の散歩から帰ってきたら、あゆみさんはささっとスムージーづくり。
作り方は、冷凍しておいたミニトマトとカットしたスモモを、半解凍させて皮ごとミキサーにかけるだけ!
あゆみさんは、完熟したトマトがあるうちにどんどん冷凍しておくそうです。流水をかけるとツルっと皮がめくれるので、お孫さんの離乳食や、マリネ、冷製パスタなんかにも大活躍!
なおみさん「わ〜!トマトとスモモの香りと酸味がいいね。スッキリしてて夏の朝にぴったり」
あゆみさん「トマトとスモモの自然な甘みが好きなんです。色もかわいいし」
ベランダで、神戸の街と海を眺めながら。シャーベットみたいなスムージーで、身体が中からひんやり涼しく。
「おはよう!」とキッチンをのぞいたふたりにも、スムージーをおすそ分け。ROKKONOMAD管理人のナオコさんとロクさんご夫妻は、ここで暮らしています。ロクさんはオランダ人のアーティストで、豊かな六甲山の自然から日々インスピレーションをもらっているそうです。
キッチンから、ふたりに話しかけるなおみさん。
なおみさん「いまから、ブリヌイを作るよ。一緒に食べよう」
ブリヌイ/ Russian pancakes
なおみさん「ロシアのブリヌイという小さなパンケーキ。今回は、簡単に市販の米粉パンケーキミックスとドライイーストを使って作ろう」
あゆみさん「はい。FARMSTANDの米粉パンケーキミックス持ってきましたよ。「ちょっとあまいよ」と「あまくないよ」の2種類があるんですけど、今回は「ちょっとあまいよ」でよかったですよね」
なおみさん「うん。ブリヌイにはちょっとあまいくらいがいいんだよね」
〈材料 小30枚分〉
市販の米粉パンケーキミックス 200g
ドライイースト 3g
無調整豆乳 300ml
溶かしバター 20g
ボウルにパンケーキミックスとドライイーストを入れ、泡だて器でしっかりと合わせる。ここでしっかり混ぜておくと次からがやりやすくなります。40度くらいに温めた豆乳を一度に加え、ダマがなくなるまでよく混ぜる。溶かしバターを加え、さらに混ぜる。
混ぜた液にラップをかぶせ、30度くらいの温かいところで50分〜1時間ほどかけて発酵させる。
小さな泡が立ち、1.5倍くらいに膨らんで溶けたアイスクリームのようになったら生地の出来上がり。さっそく焼いていきましょう。
フライパンを強火にかけたら、米油を薄く塗り(キッチンペーパーに油を染み込ませておく)、お玉ですくって隙間をあけながら小さな生地を隙間を開けて流します。生地を流した瞬間に、ふつふつ気泡ができるくらいの火加減がちょうどいい。
小さな気泡ができ、表面が乾いてきたら焼けている合図。きれいな焼き色がついたら返し、裏面も焼く。フライパンが熱くなりすぎたら火加減しながら、わりと強めの火で焼くといい具合です。できたてをさっそく一枚!
あゆみさん「わっ軽い!発酵して空気が入ってるから、軽いのかな。いくらでも食べられちゃう」
キッチンに人が集まり、みんなでつまみぐいタイム。
なおみさんが6月頃にFARMSTANDの露茜で作ったジャムと、昨日仕込んだババガヌーシュ、サワ―クリームをつけていただきます。
露茜は梅とスモモの交配種。夏のはじまりを感じる真っ赤な果実です。
お出かけ前のロクさんは、1枚だけとはいいつつ手がとまらない!ババガヌーシュがお気に入り。
ババガヌーシュに添えようとしていたパクチーを見て「パクチーって、香りはすきだけど石鹸の味がするから苦手」というロクさんの言葉に、「石鹸の味!?」とびっくりするふたり。
オランダにも、poffertjes(ポッフェルチェ)という小さなパンケーキがあるよとロクさんが教えてくれました。
なおみさん「どんどん焼くからみんな食べて」
なおこさん「綺麗な焼き色ですね。わたしが焼くといつも焦がしちゃう」
なおみさん「イーストの力だよ。パンケーキは火加減がむずかしい
なおみさん「さあ、そろそろベランダにでませんか?お料理を仕上げよう」
持ってきたスイカのサラダに、きゅうりと塩を加えて、レモンをきゅっとかけたら完成。
ブラックベリーとブルーベリーをさっと砂糖で和えます。
なおみさん「そのまま食べるときにはお砂糖はかけないけれど、サワークリームには甘みがないので。洗双糖やグラニュー糖など、つぶつぶが残るお砂糖がいいですね。キラキラしてきれいだし、酸味がやわらいで甘みが引き立つの」
サワークリームも、いい感じに固まりました。
ババガヌーシュは、器に平たく盛り付け、スプーンなどでへこみをつけ、オリーブオイルを回しかけたら完成。
森のモーニング
あゆみさん「昨日の夜も夕食をベランダで食べて、楽しかったですね」
なおみさん「ねえ、楽しかったね。やっぱりここは空が大きくていいな。私が住んでいる所も空が広いけど、ここはスケールが違う。空気がいっぱいある気がして、広々してて、よく眠れました。朝も5時くらいには薄く明るくなって、鳥の声で目が覚めた。おんなじ鳥が、繰り返し鳴いていたよ。1時間くらいぼーっとして、6時になったから起きました」
あゆみさん「じゃあ、いただきましょうか。わあ、やっぱり外で食べるのはいいなあ。夏は草木の緑が力強くて、木陰は涼しいから気持ちいい。でも私は、雨や霧の六甲山も幻想的で好きなんですよね」
なおこさん「冬は雪山が楽しいって、登って来られるお客さんもいます。私自身も冬が好きなんです。シーンとして、キーンとしてて気持ちいい。寒さを感じるのが好きです。空も澄んでて、空気が綺麗」
なおみさん「海が青くなるのって、冬だもんね。日の出のときに、太陽の真下の海が光るよね」
なおこさん「去年のお正月、六甲山から宝塚の実家まで歩いたんですけど、ずっと初日の出みたいで綺麗でした。山の上で須磨から宝塚までの六甲縦走路というコースです。メジャーなルートなので、他にも歩いている人がいて、新年の挨拶を交わしたのもいい思い出だな」
なおこさん「ババガヌーシュおいしい!焼きなすのスモーキーな香りがいいですね」
露茜ジャムとサワークリームでデザート気分。
あゆみさん「なおこちゃんは、これまでいろんな場所に住んでたよね。家族での六甲山暮らしはどう?」
なおこさん「六甲山に引っ越して3年半ですね。その前は芦屋、オランダに4年、東京に8年くらい住んでました。六甲山に来てからは、息子は学校が楽しそうです。六甲山小学校は、全校生で50人のうち、山の上からは10人くらい、山の下から来てる子もいます。まちでは、夏は暑さで外で遊びにくいけど、山ならまだ涼しいから子どもたちはよく外で遊んでいます。昔の田舎の風景のようで、なんだか懐かしい。最近は家族での移住だけじゃなく、オフィスやアトリエなどもできて、ちょっとずつ六甲山に人が集まっているように感じますね」
なおこさん「ここは”いわゆる山小屋”というよりも、自然と一緒にデザインやアートも感じてもらえる場所になるよう心がけています」
なおみさん「もっとゆっくり来たかったなあ。今日も泊まりたいくらい。
あゆみさん「わたしは、ここではまちの音がしないから、脳が緩む感じがするんです。まちにいると働くモード、ここにいると脳が緩んでアイデアがでる感じかな」
なおみさん「なんか隙間があくような感じ」
なおこさん「ちょっと違うところに身を置くって大事やなあって思いますね、センスを敏感にさせるっていうか。山って、来たらそれだけでスイッチが変わっちゃうところがいいですよね。だからかな、連泊して暮らすようにステイしたい人もふえてます。なおみさん、またゆっくりお泊まりしにきてください」
あゆみさん「いつまでもこうしていたいけど、そろそろ片付けて、みんなちょっと仕事しましょうか」
森の中、1泊2日はあっという間。心も身体も緩んで、余白ができたような夏休みでした。
夏「森のモーニング」を終えて
普段眺めている海と空が、ひとまわりもふたまわりも大きく、
高山なおみ
「高山なおみさんと神戸の暮らしシリーズ 」
みなさんと一緒に神戸の春夏秋冬をめぐり、いきいきとした旬や、坂の上、異国情緒、海辺、農村、山といった表情豊かな暮らしを楽しみました。いかがだったでしょうか?
みなさんがもっと神戸を好きになってくれていたら嬉しいです。
今後、動画も配信予定ですので、どうぞお楽しみに♪
高山なおみさん、登場してくださったみなさん、楽しみにしてくださった読者のみなさん
一年間ありがとうございました!
Special thanks
料理家・文筆家 高山なおみさん
ナオコ・ヤンセンさん、ロク・ヤンセンさん
山本文子さん、ファビオさん
一般社団法人KOBE FARMERS MARKET / Lusie Inc. 小泉亜由美
動画撮影:Lusie Inc. 原さわこ
写真撮影:Lusie Inc. 久保陽香
制作:一般社団法人KOBE FARMERS MARKET / Lusie Inc.
高山なおみさんと神戸の暮らしシリーズ・記事
▶秋「秋色のアペリティーボ」
▶冬「散歩がてらのポットラック」
▶春 「海辺のピクニック」
▶夏「森の中のモーニング」
高山なおみさんと神戸の小さな旅シリーズ・動画
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